メルカリ、「返品詐欺」炎上で窮余の対策 消費者保護法制の限界も露呈
「メルカリで売却した商品の返品要請に応じたら、購入者から全く別のものが送られてきた」――。ある利用者の悲痛な訴えはSNS上で拡散され、似たような被害に遭った利用者も相次いで声を上げる事態に発展した。ネット上で炎上し「返品詐欺」などと呼ばれる今回のトラブル。なぜ起きたのか。 【関連画像】メルカリが発表した体制強化と補償方針の詳細 まず、メルカリでの売買を簡単におさらいしておこう。メルカリの出品者は商品が購入された場合、購入者が商品を受領し取引の評価をつけた時点で、メルカリが一時的に購入者から預かっていた商品代金から手数料などを除いた金額を受け取れることになっている。 今回の事例では、購入者の意向を受けたメルカリが取引キャンセル(不成立)と判断し、代金はメルカリから購入者に返金されてしまった。出品者はメルカリに事情を説明したものの、メルカリは購入者の「もとから商品に欠陥があり、その商品を送り返しただけ」という主張を踏まえ、当初は補償に応じなかった。 こうした悪質な利用者が、実質的に無料で商品を手に入れることが仕組み上可能なことや、メルカリ側が当初、購入者側の言い分を一方的に信用したことがSNSなどで問題視された。 炎上を受け、メルカリは謝罪と顧客サポート体制の強化を表明。一連の事象の発覚から約1週間後の11月25日に発表したプレスリリースで体制強化と補償方針の詳細を明らかにした。 対策の内容は、①顧客サポートの体制の強化②顧客への補償の拡大③不正利用者の排除――の3つからなる。 利用者(出品者・購入者)から「すり替え」や「模倣品」の申し出があった場合には、新たに開設する「商品回収センター」に疑わしい商品を送付してもらい、メルカリ側で実物商品の回収・目視確認を実施。その上で、正しく利用している利用者には補償を拡大し、不正な利用者には取り締まりを強化する方針だ。その他にも、「本人確認の対象拡大」や将来的な施策として「不正行為を検知するためのAIシステムなどの構築」、「アカウント通報機能の強化」などを実施するとしている。 こうした対応策で返品詐欺などのトラブルを抑制することはできるのか。電子商取引(EC)などのデジタルプラットフォーム(DPF)法制に詳しいニッセイ基礎研究所専務取締役で保険研究部研究理事の松澤登氏は、「効果が期待できるかどうかは、メルカリがどれだけのリソースを紛争解決処理に割くかによる」と指摘する。 確かに、商品回収センターの開設などは悪質な利用者に対して一定の抑止力になるかもしれない。しかし、事実の立証には利用者が商品の梱包・開封作業を映像に記録するなどの自衛策が必要になる。今回の事例でも、決定的な証拠がない限り、メルカリとしても双方の主張の真偽を判定しようがないのが実情だ。 もっとも取引の度に、利用者に商品の記録を残すなどの自衛策を強いては取引の利便性が損なわれ、客離れにつながりかねないため、メルカリ側もそこまでは踏み込めないと考えるのが自然だ。したがって、今後も返品詐欺などを働いた悪質な利用者を特定できないケースが想定される。 松澤氏は、「自己がシステム(制度)を構築して、そこで利益を得ている者は、そこで生ずる損害を負担すべきである」という法解釈の原則を踏まえ、そうしたケースでは究極的には「(メルカリなどの)DPF運営者が負担を甘受すべきだ」と言う。