「人生変わった」 資金難に陥った米地方自治体が週32時間労働で成功した理由
週4日勤務の仕組み
サンファン郡の各部署はさまざまな形で週32時間労働を実施した。これまでと同様の受け付け時間を維持するために人員をずらして配置したところもあれば、スケジュールを短縮して週4日しか稼働しないところもある。 郡の公園の管理者、ジョー・イングマンさんは「みんなに言っているのは、あなたたちの視点からは何も変わることはないということだ」と語る。「事務所は開いているし、トイレは掃除され、芝は刈られる」 イングマンさんの部局では、職員を週7日配置できるようスケジュールを調整した。シフトを越えたコミュニケーションが最初の難関だったが、すぐに乗り越えることができた。 「10年以上公園で働いてきたが、おそらく、これまでで最も順調な夏だった」とイングマンさん。週32時間勤務は採用活動にとってプラスになると考えている。以前は欠員が何カ月間も続くことがあったが、夏には応募が増えただけでなく、より適切な人材が集まった。イングマンさんが採用した職員2人はいずれも同郡を訪れた理由に週32時間労働を挙げた。 イングマンさんは週32時間労働が仕事のやりがいにつながっていると指摘した。これまでに同僚が燃え尽きるのを見てきたが、今ではこの部署での自身の将来にも展望が開けているという。
より賢く働く
郡のマネジャーのハドソンさんは「わたしたちが行った最大の取り組みは効率を生み出す方法を見つけることだった」と振り返る。「そもそもやるべき仕事が足りなかったというよりも、どうすればその仕事をより良くこなせるのかということが重要になった。納税者の税金と従業員の時間を最大限に活用し、仕事を遂行するためのより良い解決策を見つけるには、どうすればよいのかと」 マシュー・スチュワードさんのような部署では、それは優先順位を重視することにつながる。「優先度の高い項目はいつものようにすぐに終わらせる。優先度の低い項目はもう少し時間がかかるかもしれない」とし、50個の電球のうち一つが切れている場合には対処するのに数週間かかることもあると説明した。 サンファン郡が週32時間労働を導入したきっかけは経済的なものだったが、同郡で挙げられた利点は、より大きな流れとなりつつある。燃え尽き症候群と闘い、人材を引き付けて維持するために、勤務時間に柔軟性を取り入れる傾向が強まっているのだ。 最高経営責任者(CEO)を対象に行われた今春の調査によれば、米国の大手企業の約3分の1が、1週間あたり4日もしくは4日半の勤務を検討していることがわかった。 ギャラップの昨年の世論調査では、全体の労働時間が減らなくても、3日目の休みが広く受け入れられる可能性が示された。米国の労働者の77%が、週当たり4日間40時間の勤務は健康に良い影響を与えると回答した。 週32時間労働の維持か、20%の昇給かどちらを得るのかと質問されると、サンファン郡の職員からは、現在の仕事でそうした昇給を得られるのは実行可能な選択肢ではないとの指摘が出た。むしろ、現在は両方の良いところを手にした状況だと考えている。クリステン・レザベクさんは「追加の時間を求めるか、副業という形で追加の収入が得られるかを選択できるが、その選択肢は働く側に委ねられている」と述べた。 全ての職員が正式に週32時間労働の対象となっているわけではない。現時点では組合が代表する約155の職にだけ適用されている。週32時間労働への移行の影響については、現在の契約期間中も引き続き調査が行われる。郡は来年、2年分の報告書を提出することを予定している。