トヨタ「アクア」、なぜ失速? ハイブリッド車を取り巻くある事情
当初小沢が、2代目アクアが国民的ハイブリッド車として売れ続けると思った最大の理由は、そのつくりからだ。 ヤリスの現行ハッチバックモデルと同じ高効率な1.5Lハイブリッドエンジンを搭載しつつも、ヤリスよりホイールベースを5cm長くしてリアシートを広げた。言ってみれば、上手にヤリスのネガティブな要素を消したようなつくりだった点を評価した。 見た目は、欧州車を凝縮したようなテイストのヤリスに比べると、アクアの方が優雅で優しい乗用車といった印象が強い。インテリアも、質素なファブリックを採用するヤリスに対して、アクアの方が明らかにカラフルでコストもかけている。 走りも、若干硬さが目立つヤリスに比べてアクアの方がしなやかであり、システム出力こそ116psと変わらないものの、アクアはほとんどのグレードで大電流が流せる出力が2倍の「バイポーラ型ニッケル水素電池」を搭載しており、明らかに出足の電動感が強い。停車時のエンジン音が静かで、最良の燃費も1リットル当たり35.8kmと悪くない。 静かで力強い走りのバッテリー電気自動車(BEV)が昨今人気だが、そのはやりに近いのはヤリスよりアクアだと断言できる。カージャーナリストとして冷静に乗り比べしてみて、個人的にもコンパクトハイブリッド車を今買うのであれば2代目アクア一択だとの結論に至った。 ●ハイブリッド車の価値が世界的に見直され始めた もう一つの理由は、ハイブリッド車が一転して浸透率が高まり、アクアの位置づけが大きく変貌したことに他ならないと小沢は考える。 トヨタは09年に発売した3代目プリウスからハイブリッド車の本格的な世界展開を始め、それを受け継いだのが初代アクアだった。 当初「カローラ」にはハイブリッド車がラインアップされず、「クラウン」「ハリアー」も高価なV6の3.5Lハイブリッドエンジン搭載車しか用意されなかった。「RAV4」に至ってはそもそもハイブリッド車の設定がなかったが、徐々にトヨタがハイブリッド車を広げていったのはご存じの通りだ。 BEVブームが巻き起こるなか、ハイブリッド車を中核に据えるトヨタの戦略は批判されることもあったが、24年以降その声は鳴りを潜めている。というのもハイブリッド車の価値が世界的に見直され、実際BEV以上の売れ行きを見せつつあるからだ。 日本は乗用車のハイブリッド車比率が全体で5割程度とされるが、北米は18年まで1割程度(RAV4の場合)にとどまっていた。それが一気に3割かそれ以上へ上昇。ハイブリッド車は、今や世界的な普及フェーズに入りつつある。 結果、何が起こったのか。要はハイブリッド車の需要が一極集中していたアクアやプリウスから、実用的なカローラやRAV4のハイブリッド車に流れ始めたのではないか。小沢はそう見ている。 言ってみれば、ハイブリッド専用車だったアクアは、燃費の良いハイブリッド車が欲しい人が選ぶ特別なクルマではなく、トヨタがラインアップする多種多様なハイブリッド車の一つに過ぎないクルマになった。“普通のクルマ”になったと言ってもいいだろう。 まとめると、アクアが以前より売れないのは、それだけハイブリッド車が普及し、トヨタの戦略が世界的に見直されている証左ということだ。ある意味、トヨタの経営陣にとっては、大変喜ばしい事態になっていると言っていいのかもしれない。
小沢 コージ