斉藤由貴は「不安定」だけど「プロの可能性を感じた」…音楽家・武部聡志が語るプロだけに漂う雰囲気
武部聡志さんは、日本の音楽シーンを50年近く支えてきたレジェンドのひとりだ。 音楽監督、作曲家、編曲家、プロデューサー……。さまざまな立場で仕事を共にしてきたミュージシャンの数は、実に3000人。日本で一番多くの歌い手と共演した音楽家とも言われている。 【写真】輝き続ける斉藤由貴の特別撮り下ろし なかでもユーミンこと、松任谷由実との関係は深く、コンサートの音楽監督を任されて40年以上が経つ。ほかにも、携わったアーティストの顔ぶれは華やかだ。アレンジャーとしては松田聖子や斉藤由貴、薬師丸ひろ子の曲を、プロデューサーとしては一青窈や平井堅、今井美樹の曲を手がけている。 『ユーミンの歌声はなぜ心を揺さぶるのか』を11月に上梓した武部さんに、日本の優れた歌い手たちの魅力を解説してもらった。
斉藤由貴の歌い方は「究極の不安定」
──先ほどの話にもすこし出てきましたが、そもそも武部さんが売れっ子アレンジャーになるきっかけを作ったのが斉藤由貴さんの『卒業』です。去年も斉藤さんのセルフカバーアルバムを手がけていて、もうかなり長い付き合いですよね。 由貴ちゃんが18歳ぐらいのときに初めて会ったので、もう出会って40年くらいになりますか。アレンジャーという立場を超えて、ある種プロデューサー的な立場でも携わってきました。半ば戦友みたいな関係というか。 ――斉藤さんに初めて会った日のこと覚えています? たぶん『卒業』の歌入れのときに初めて会ったんじゃないかな。当時の由貴ちゃんは、掴み所がないというか、 ふわっとした印象でしたね。それと、なにかまだこう、容易に大人を信用しないぞっていう顔をしていました(笑)。 ただ、レコーディングを重ねたり、一緒にスタジオに入ったりしているうちに、だんだんと心を開いてくれるようになりましたけど。 ――デビュー当時はアイドルとして売り出されていましたけど、松田聖子さんのようなタイプではないですよね。 由貴ちゃん自身、アイドル活動よりも演じるほうが自分に合っていると早い時期に気づいていたと思うんです。割と早いタイミングで女優業に重きを置くようになっていましたし。いまではもうすっかりベテラン女優ですよね。 ――斉藤由貴さんの歌には浮遊感というのか、不思議な魅力があります。 彼女の歌い方はかなり特殊で、僕は“究極の不安定”と表現しています。確かに、歌い手としては安定性に欠けていると思います。でも、逆にその不安定さや儚さが歌い手としての彼女の魅力なんです。由貴ちゃんが重きを置いているのは、曲の世界や歌詞に込められた想いを伝えること。ピッチやリズムを型にはめてしまったら、それこそ魅力が半減してしまいます。