五輪効果は過大評価? 「関連投資ピークアウトで景気減速」説を検証
東京オリンピック・パラリンピック関連投資の先行き見通しから、2019年は景気が減速するとの見方があります。それは本当なのでしょうか。第一生命経済研究所の藤代宏一主任エコノミストが、いくつかの統計数値から読み解きます。 【グラフ】東京五輪で儲かりますか? インバウンド需要と建設関連投資から考える(2018年1月配信)
GDP統計では確かに2018年でピークアウト
日銀が2015年に発表したペーパーでは、東京オリンピック関連の建設投資が18年でピークを打った後、19年から緩やかに減少していくとの分析が示されていました。実際、日銀はその分析結果を成長率見通しに織り込み、19年度以降の減速要因と説明しています。 そこでオリンピックに関連した直接的な投資が色濃く反映されると思われるGDP統計の「形態別総固定資本形成」の「その他の建物・構築物」(≒非居住用の建築物)を確認すると、たしかに 18年でピークアウトした形になっています。この数値は17年央から18年央まで5%程度の伸びが続いた後、18年4Qはマイナス4.3%と9四半期ぶりに前年比マイナスとなりました。オリンピックに直接関連した施設をはじめ、オリンピック招致を契機に開発着手された案件が竣工しつつあるのかもしれません。ちなみにこの数値は総固定資本形成(民間設備投資と公的資本形成の合計)の約3分の1を占めます。
建設総合統計では未消化受注案件が豊富に
次に、建設総合統計の地域別工事費(出来高ベース)をみると、「南関東」が高水準を維持する反面、「その他地域」は控え目な水準になっており、コントラストが鮮明です。2013年頃から東日本大震災の復興需要がピークアウトする下で全国の数値が伸び悩む中、2016年から南関東が急激な伸びを示しており、オリンピック関連投資が盛んに行われていると思われます。この見方が正しければ、日銀の予想どおり19年にオリンピック関連の投資がピークアウトし、景気を下押しする可能性があります。
しかしながら、建設総合統計の「手持ち工事高」(契約済み請負金額のうち、未消化の工事に相当する額)に目を向けると、足もとの水準は約30兆円と高水準にあり、未消化の受注案件が豊富に存在していることが分かります。過去数年の高い伸びの反動によって足もとでは前年比マイナスに転じているものの、人手不足がボトルネックとなり未着手の案件が大量に積み上がっていると思われます。 この間、政府が災害対策として公共投資に予算を振り分けているほか、オリンピックとの直接的関係が希薄な都市開発が増加しているのでしょう。こうした「オリンピック以外」の手持ち工事高が直ちに消滅するとは考えにくく、これらはオリンピックとの直接的関連が強い案件が消化されるにしたがって進捗が予想されます。つまり18年でオリンピック関連の建設投資はピークアウトした可能性はありますが、それを以って広義の設備投資が減速し、景気全体を下押しするとは限りません。良くも悪くもオリンピックの経済効果を過大評価しないことが大切です。
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