『虎に翼』伊藤沙莉の緩急自在なパフォーマンス 「新潟編」における寅子の“変化”を読む
キャラクターを巧みに操る伊藤沙莉の“経験値の高さ”
もちろん、寅子がさらに仕事に邁進していく姿を、伊藤がどう体現していくかも注目である。 「新潟編」における登場人物は、少しだけ面識のあった星航一(岡田将生)をのぞくと誰もが初対面。最初こそアツい歓迎ムードのように感じたものだが、やはり新潟での生活は東京とはまったく違う。新天地に自らをうまく適応させながら、寅子は自分の為すべきことを為していかなければならない。 職場を変えたりしたことで、大きな心労を味わった経験のある方は少なくないだろう。周囲の人々のキャラクターを把握できず、自分がどのように立ち振る舞うのがベストなのかを掴むまでにはかなりの時間と労力を費やすものだ。いつだって全力投球で臨んできた寅子だが、新潟ではある意味、孤立無援の状態。観ているだけでこちらまで疲れてしまうほどだ。 そしてこれは、「新潟編」における伊藤本人にもいえることだろう。寅子のキャラクターの軸がブレることのないように強度を保ったまま、『虎に翼』の世界に新たに登場をする者たちを次々と相手にしていかなければならない。これがうまく成立しているあたりに、やはり伊藤の圧倒的な経験値の高さを感じる。彼女の緩急自在なパフォーマンスは、どんなときでも、誰を相手にしていても、決して感情的な熱演に陥ることがない。一つひとつのシーンにおける寅子の立ち位置や役割を整理し、演じ手として冷静さを欠くことなく、巧妙にキャラクターをコントロールしている印象を受ける。なぜここまで力強く本作を牽引してこれたのか。その秘密がこの「新潟編」には端的に表れているのではないだろうか。 寅子は自分のペースやリズムというものを持っている人間だが、航一もかなりのマイペース人間だ。ふたりの掛け合いはこれからさらに盛り上がっていくのだろう。その先に、またさらなる俳優・伊藤沙莉の真価が見えてくるはずである。
折田侑駿