なぜ日ハム・吉田輝星は8割ストレート勝負でプロ初登板初勝利を手にできたのか?
日本ハムのドラフト1位・吉田輝星投手(18)が12日、札幌ドームで行われた交流戦の広島戦にプロ初先発、5回を投げ4安打4奪三振2四球1失点の内容で、デビュー戦で初勝利を飾った。高卒ルーキーの初登板初勝利は2015年に楽天の安楽智大が記録して以来、4年ぶり19人目の快挙。驚くべきは強力打線の広島相手に84球を投げ80%にあたる67球がストレートだったこと。最速は147キロだったが、横回転が加わったストレートとスピンの効いたホップするストレートの2種類で勝負して広島打線をキリキリ舞いさせた。ストレートだけで通用する投手は、近年のプロ野球では希少価値。人気と実力を兼ね備えたスーパースターが誕生した。
満塁ピンチに三球三振
これが果たして18歳のルーキーだろうか。 デビュー戦。しかも、相手は強力打線が売りの広島でマウンドには昨年の最多勝投手の“エース”大瀬良。これ以上ない厳しい舞台設定だったが、「初めての1軍マウンドで、試合開始から雰囲気は違うなと思いました。それでも、緊張はあまりせずに、初回から投げられました」というから大物だ。 スケールの違いを見せつけたのが初回だった。 先頭の長野にセカンドの右を強襲するヒットを浴び、2つの四球で一死満塁のピンチを背負うが、そこに心の揺れはない。 5番の西川を迎えて3球勝負。初球、143キロのストレートは高めのボール球だったが、西川は手を出した。続く2球目も143キロのストレート。やや外角の甘めのボールだったが見逃した。そして勝負球は140キロの外角ストレート。西川のバットは空を切った。実は、このボールは、少しだけ横回転していた。“マッスラ”と呼ばれるほどの変化はなかったが、外から動くボールに戸惑ったかのように西川のスイングは、まったくタイミングが取れていなかった。 「ストレートで押していって。打たれたらそこまで。しょうがないという気持ちだった」とは、吉田のピンチ場面の回顧。 続く磯村も、この日最速の147キロをマークしたストレートで押し込みカウントを整えて最後は大きなカーブをひっかけさせた。三塁ゴロ。トラックマンを使ったデータ分析では、ドジャースのエース、カーショーのカーブに回転軸や軌道が似ているとされるカーブである。 2回には二死から田中に甘く入ったカーブをライト前へ運ばれ、長野にフルカウントから140キロのストレートを狙い打たれた。左中間を深々と破るタイムリーツーベース。指のかかりが甘くなったボールはやられる。だが、この場面で田中の足を警戒して高レベルのクイックを見せていた。大田に先制の12号ソロの援護点をプレゼントしてもらっていたが、たちまち同点になった。それでも日ハムは、スーパールーキーのデビュー戦に一丸になっていた。2回に西川のタイムリー内野安打で勝ち越し点。リードをもらうと投手にとって最も大事な「点を取ってもらった次のイニング」で吉田が圧巻のピッチングを見せる。3回クリーンナップを迎えた場面。バティスタには甘いカーブを痛打されたが、ショートの石井がジャンプ一番好捕した。 そしてセの打撃三部門でトップ3につけている鈴木誠也である。初球のストレートはボールになったが、横回転をつけた“マッスラ”だった。2球目はど真ん中にいったが、鈴木はファウル。想定よりボールが伸びてきて仕留めきれなかったのだ。そして3球勝負のウイニングショットもストレートだった。スピンのかかった外角のストレートに押し込まれポーンとライトへ打ち上げてしまう。続く西川もストレートでレフトフライ。 試合後、「あそこがやっぱ1番気持ちを入れてがんばりました」と吉田が振り返ったクライマックスだった。 ファームでは最多でも77球しか投げていなかった。勝利投手権利のかかった5回は、未知の領域だったがギアを上げたのがわかった。 長野をレフトフライに打ち取り、続く菊池から145キロのストレートで4つ目の三振を奪う。一発のあるバティスタにも、3球すべてストレート勝負を挑み、力負けせずにライトフライ。ベンチに帰った吉田は栗山監督に握手で労いの言葉を受けた。