【大阪杯回顧】苦境の4歳世代が反撃の狼煙を上げる 着実に力をつけるベラジオオペラと上村洋行厩舎
ホースマン上村洋行の歩み
開業から6年目。上村洋行厩舎が待望のGⅠタイトルを手にした。騎手時代はサイレンススズカに乗り、17年目にスリープレスナイトでスプリンターズSを制した苦労人だ。熟練ファンには、90年代終わりから2000年代初頭、苦境にあった高知を支えたナムラコクオーのJRA時代の主戦騎手としても記憶されている。デビュー当初は自力で減量特典を返上するなど順調な道を歩んできたが、騎手キャリアの中盤、もっとも脂がのった時期に目の病気に悩まされ低迷してしまう。病気克服後は再び勝ち鞍を上昇させGⅠにたどり着いた。 【大阪杯2024 推奨馬】勝率43.8%で単回率221%の黄金タッグ! SPAIA編集部の推奨馬を紹介(SPAIA) 最近は調教師免許試験合格を機にステッキを置く騎手が多いが、同師は免許取得前に引退し調教助手に転身したのちに調教師になった。これまでたくさん回り道をしてきた上村調教師にとってJRA・GⅠ10度目の挑戦での戴冠はどのように映っただろうか。 厩舎開業後、初年度10勝、2年目は19勝、3年目25勝とグラフにすれば右肩上がりで勝ち星を増やし、昨年は40勝をあげリーディング7位とトップ10に食い込んだ。この年のスプリングS、重賞挑戦30回目での初制覇を達成した。それが今回初GⅠ制覇をプレゼントしたベラジオオペラだ。はじめて出走馬を送った昨年の日本ダービーは4着。勝ち馬タスティエーラとはタイム差なしと紙一重だった。
師の歩みと合わせ鏡のようなベラジオオペラ
思えば、あのスプリングSは重馬場ながら前半1000m通過59.4のハイペース。上がり37.2とかかった消耗戦を4コーナーで動いて勝ち切った。同年チャレンジCも残り1200mからゴールまですべて11秒台を記録する緩みない流れになった。このレースに出走したエピファニー、リカンカブールがその後重賞を勝ち、ボッケリーニは次走GⅡ2着、ガイアフォースはフェブラリーS2着と健闘した。ハイレベルな一戦として何度となく触れたレースだけに同舞台の大阪杯制覇は納得できる。ベラジオオペラは厳しい流れを勝ちあがってきた。 ベラジオオペラはホースマンとして苦労が多かった上村洋行調教師の合わせ鏡のような存在といえよう。粘り強くひた向きに道を進めば、必ず報われる。「努力をしても報われない奴はいる。間違いなくいる。ただ成功した奴は、必ず努力をしている。」とは長州力の隠れた名言だが、調教師転身後の右肩上がりの成績は、騎手、調教助手、調教師と歩んできたホースマンとしての努力の成果だろう。 派手さはなくても一歩ずつ階段を駆けあがり確固たる力を身につける。ベラジオオペラはそんな上村厩舎の象徴だ。フルゲートの阪神内回りでは必須となるダッシュ力で機先を制し、スタニングローズを先に行かせ絶好位の2番手をキープ。結果として、序盤の立ち回りが勝利を呼び込んだ。前後半1000mは1:00.2-58.0。後半が2秒2も速くては、後続は太刀打ちできまい。積極策から最後まで粘り通し、ローシャムパークとの競り合いに勝った。根気を感じる粘り腰はベラジオオペラがここまで培ってきた最大の武器でもある。 大敗した皐月賞以降、一旦控えて差す競馬を経験してきたからこそ、番手でも折り合い、脚を溜めることができた。好位でしっかり溜めて末脚を繰り出されては、後ろから来る馬は追いつけそうでもその差を縮められない。後続の心を折りにいくような競馬。これがベラジオオペラ強みだろう。苦境の4歳牡馬のなかで唯一、古馬中距離重賞を複数勝利しており、新たな世代トップホースに躍り出た。ベラジオオペラの奮闘を合図に、この先の春戦線でライバルたちも息を吹き返すのではないか。流れは勝負事では肝要であり、大阪杯は一連の流れの分岐点になるかもしれない。