中国のASEANへの影響力拡大がとまらない…日本がいま「ほんとうにすべきこと」が見えてきた
日本が使える外交ツールは十分に残っている
中国が手をつけているASEANやアフリカの多くの諸国について、日本からの投資額は欧州全体からを除き、米中に続いて第三位や上位につけるなど、日本が使える外交ツールや力は十分に残っています。その力を、アメリカ追従ではない形で強めていくことは、日本が自分のため、あるいは国際社会のために貢献できる一つの形でもあります。 宇露戦争はまさにそうした好機でもありました。米欧がロシア非難、ウクライナ支援で手一杯の中、中国が各国を回って影響力を強めている。ならば日本は、先にも述べた通り米欧に追従してウクライナにくぎ付けになるのではなく、中東、アフリカ、ASEAN、南米に手入れしていく。中国が狙って動いているところへ、日本が先回りして手を打つという発想が必要です。 その点で、ASEANに対しての近年の日本外交の中で良い一手は、2022年5月12日に首相官邸で開かれた有識者会合でした。この有識者会合では、ASEANとの交流開始50周年にあたる2023年の特別首脳会議に向け、安全保障や経済、文化など各分野で連携を強化するための新たなビジョンを策定するというものです。現時点では良策といえますが、リアルマネーを使ってゴリゴリと対ASEAN関係深化を図る中国という存在がいる限り、日本も継続的に十分な規模の外交リソースを割かなければなりません。会議を開き、ビジョンを共有しました、というだけで各国の信頼を得続けることは難しいものです。 バイデン政権もASEANをも巻き込んだ経済圏構想として「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」の発足を表明しています。アメリカが出てきてしまうといきなり中国との対立姿勢になってしまうことで、ASEAN各国は非常に難しい選択を迫られることになりかねませんが、前者の日本の取り組みは、それよりもソフトでありながら実効性が見込める構想であり、今後に注目です。
インドと付き合っていくために今すべきこと
日本ではロシアのウクライナ侵攻以降、Quadでは対中包囲網の一端を形成する仲間、とみているインドが、対露に関しては足並みをそろえようとしない状況にフラストレーションを溜めている人もいるようです。しかしそれぞれの国にはそれぞれの国益や事情があり、「すべての場面で歩調を合わせないからと言って敵認定する」のは愚の骨頂と言わざるを得ません。 ただし、前述の通り、そうした「インドは、G7中心の米欧諸国にとって敵か味方か?」という考えそのもの背景には、「米中対立G2構造に関与するインド、G2構造上のインド」という認識があり、それはインドの外交意識と今後の発展を鑑みれば誤った想定だと言わざるを得ません。 インドはこれから明確に別の極を作り「米中印G3構造」になっていく蓋然性が高いものとなっています。 とりあえずの次善策として、ウクライナ側に立ち、完全反露で結束している米欧諸国がインドをケアできないことを考慮したうえで、日本だからこそできるインドとの連携方法ないしは競争方法を模索しておくことには意味があるでしょう。
中川 コージ(管理学博士(経営学博士)・インド政府立IIMインド管理大学ラクナウノイダ公共政策センターフェロー)