大谷翔平「50-50」達成の舞台裏・対戦相手からの視点 清々しい真っ向勝負を選んだ理由
【勝負を選択したシューメーカー監督の人物像】 また、自軍投手たちに敬遠を指示しなかったシューメーカー監督の言葉も最後までポジティブであり、潔さすら感じさせた。 「彼がホームランを打ったことは、ゲームの一部だ。私が見てきたなかで、最も才能のある選手。これまで誰もやっていないことを成し遂げている。もう何年かピークが続いたら、史上最高の選手になるかもしれない。ダグアウトではなく、ファンとしてスタンドでそれを見られたらよかったのかもしれない。ただ、私は選手たちが彼を恐れず、勝負にいったことを誇りに思う」 すべてを美談にしようとするのは、適切ではないのかもしれない。メジャーを代表する低予算チームであるマーリンズは、昨季は予想外の形でプレーオフに進んだものの、今季は57勝97敗と低迷。下位チームはブルペンの力がかなり落ちるのが特徴であり、マーリンズもチーム防御率4.83はリーグの全30チーム中29位だ。この試合、大谷にとっては偉業を達成したのみならず、6打数6安打3本塁打10打点2盗塁というとてつもないモンスターゲームでもあったが、相手の戦力不足の産物である部分も否定できない。 ただ、それらのすべてを考慮した上で、ここでのマーリンズの姿勢とバウマン、シューメーカー監督の言葉は清々しさを感じさせた。シューメーカー監督の言葉どおり、ペナントレースとは関係なく、点差がついた場面だからこそ、勝負を避けていたらファンを落胆させていたはずだ。 ベースボールファンなら、シーズン終盤のタイトル争いが敬遠合戦の末に決着するシーンを見た経験があるはずだ。アメリカにおいても、記録がかかった場面での真っ向勝負が避けられる光景は見られる。マイアミではそうはならなかったことに、ドジャースのデーブ・ロバーツ監督も感謝に近い言葉を贈っている。 「スキップ(シューメーカー監督)は、翔平には莫大なリスペクトを抱いているから(勝負させる)と言っていた。それは翔平に限らず、このゲーム自体へのリスペクトなのだろう。大差がつき、スタメンの選手たちは交代していた。それによってファンが取り残されてしまいがちだが、翔平とスキップはもっと重要なことがあると理解していた。それを私もリスペクトするよ」 シューメーカー監督は現役時代には打率3割を打ったシーズンを複数回記録しており、セントルイス・カージナルス時代の2011年には世界一に貢献した経験もある。カージナルスの選手らしく、勝ち方を知った知性派というイメージだった。そんな人物が引退後、すぐに指導者の道を歩み出したことも納得できる。 昨季は就任1年目でナ・リーグの最優秀監督賞を受賞したシューメーカーが、最後に残した言葉もまた印象的だった。 「マーリンズにとってよくない日でも、ベースボールにとっていい日だった」 引き立て役であっても、巨大なエンターテイメントの重要なキャストであったことに変わりはない。視野の広さと気品を持った44歳の青年監督が今後、若い選手たちが多いチームをどう導いていくかが楽しみでもある。
杉浦大介⚫︎取材・文 text by Sugiura Daisuke