「1年目でボコボコにされてよかった」出雲の覇者・國學院大エース平林清澄のリベンジとどん欲なる野望…3冠へ「あと2本、勝ちに行きます」
マラソンの経験が生きた
「大阪マラソンと一緒です」とにんまり。今年2月、初マラソン日本最高記録、日本学生記録となる2時間6分18秒をマークし、実業団の選手たちを抑えて優勝を飾り大きな自信をつけた。中盤から終盤にかけての快走は、「駅伝でもマラソンの経験が生きてくる」と話していたとおりである。区間2位の工藤慎作(早稲田大)に32秒差をつける、文句なしの区間賞で優勝に華を添えた。 勝負のアヤは、主将のエース対決となった“並走”にもあった。敵将の藤田敦史監督は、苦虫を噛み潰したような顔で回想する。 「篠原は勝負に徹することができなかった。走り始めから表情がきつそうでした。余裕がないように見えたので一度下がればよかったけど、プライドがあって並んでしまった。それを平林君に察知されたんでしょうね」
「きょうは、お前は強かった」
指導者として学生駅伝で通算27度の優勝経験を持つ駒大の大八木弘明総監督は表彰式後、ばったり平林と顔を合わせると、渋い表情で握手をかわし、その走りを称えていた。 「あそこで勝負したから、お前は勝てたんだ。きょうは、お前は強かった」 一方、充実感を漂わせる前田監督は、大黒柱への信頼をあらためて口にした。 「篠原君としては、勝てると思っていたはず。だから、(風よけになり、表情が見えない)後ろにつかず、横に並んだのかなと。でも、思いのほか、平林が強かった。実力を見誤ったのかもしれませんね。平林にはスタミナ勝負に持ち込んだ賢さ、マネジメント力、度胸があります。スピードがないと言われることもあったけど、4年間かけてつくってきましたから。いまは1年目で見せた、ラストに弱いランナーではないので」
1年目からボコボコにされてよかった
本人も1年時の出雲路は、ずっと胸に刻んでいる。タイムだけを見ると、ルーキーながら6区で区間5位と健闘したものの、悔しさばかりが残る。チーム順位を3位から4位に落とし、わずか4秒差で表彰台を逃したのだ。3年目は満を持してアンカーを務め、出雲ドームで涙を流している。優勝した駒澤大の鈴木芽吹(現トヨタ自動車)に力の差を見せつけられ、2位・城西大の背中も遠かった。 「いま振り返れば、1年目からボコボコにされてよかった。2度のアンカー経験が生きたのかなと。キャプテンとして勝てたのは、本当によかった」 出雲駅伝には特別な思いもある。2019年10月、國學院大の主将がアンカー区間で駒澤大の駅伝主将を振り切り、初優勝した場面は鮮明に覚えている。画面越しに土方英和(現旭化成)のラストスパートを見たときには鳥肌が立った。それ以来、福井の美方高校に通う2年生は國學院大を羨望の眼差しで見るようになり、縁あって進学を決めたのだ。 土方へのリスペクトは強く、いまも普段のジョグはOBが走り続けたコースで汗を流す。いつか先輩のように優勝テープを切りたいと思い続けて4年――。感慨深そうに記憶をたどっていた。 「今回も駒澤と競って、あのときの再現のようなレース展開でしたね」 大会前日には、5年前に主役となった土方から連絡をもらっていたという。 「『どうなの? 』と聞かれたので、『行ける(優勝できる)と思います』と言っちゃったので、行くしかないな、と。憧れを憧れのまま終わらせず、大学ラストイヤーの初戦を飾れました」
全日本、箱根も勝ちにいく
ただ、勝利の余韻に浸ることはなく、どん欲な主将は早くも先を見据えている。初制覇を狙う11月3日の全日本大学駅伝、そしてシーズン初めから明確な目標に掲げる箱根駅伝の初優勝に向けて、意欲を示す。 「チャンスはあと2本。いずれも勝ちに行きます。(出雲駅伝優勝、箱根駅伝総合3位の)土方さんたちの世代をしっかり超えていきたいと思います」 力強い言葉には自信がにじむ。國學院大の新たな歴史を築くだけにとどまらない。大学駅伝界の勢力図を変える予感も漂わせていた。
(「箱根駅伝PRESS」杉園昌之 = 文)
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