会社は公器...松下幸之助が“都心の人口集中”を予測して下した決断
経営指導料
松下電器がオランダのフィリップス社と技術提携した際、一つの大きな問題となったのは技術援助料の高さであった。フィリップス社は7パーセントを要求してきた。 「アメリカの企業は3パーセントなのに、なぜお宅は7パーセントもの技術援助料を要求するのだ。ちょっと高すぎるのではないか」 フィリップス社はそれに答えて、 「わが社と提携すれば必ず成功する。それだけの責任を持つし、過去の実績を見ても、それはわかるだろう」 と言う。たいへんな自信である。しかし、交渉を進めるうちに、技術援助料は4.5パーセントまで譲歩してくれた。しかし、それでもまだ高い。 幸之助は、なぜフィリップス社の技術援助料がそんなにも高いのか、静かに考えてみた。 "アメリカの技術も、フィリップス社の技術も、技術それ自体はそんなに大きな差があるわけではなかろう。にもかかわらず、それだけの値段の差があるというのは、それは技術以外の面、すなわちその技術をいかにして活用し成果を上げていくか、そうした面に違いがあるのだろう。しかし、待てよ。それならば......" 幸之助はあることに思い至った。 "技術を導入する側によっても、その成功の度合が異なるはずではないか。言ってみれば、学校だって、いくら先生が上手に教えても、生徒によっては十分にそれが生かせない生徒もあれば、反対に十二分に理解し体得する生徒もいるだろう。手のかかる生徒もいれば、手のかからない生徒もいるわけだ。そう考えると、フィリップス社の言い分は、先生がいいから7パーセントだと言っているのと同じだ。それは生徒の側を無視した考え方ではないか!" そこで幸之助は、このような意向を伝えた。 「フィリップス社が松下電器と契約したならば、フィリップス社がこれまでに契約したどの会社よりも大きな成功を収めることができる。他の会社との場合を100とするならば、松下電器とならば300の成功を収めることができるだろう。 松下電器の経営にはそれだけの価値があるのだ。だから松下電器の経営の価値に対してフィリップス社は経営指導料として3パーセント、松下電器はフィリップス社に対し技術援助料4.5パーセントを支払うとしてはどうだろうか」 フィリップス社側は驚いた。 「いまだかつてわれわれはそんな経営指導料などというものを払ったことはない。そんなことを耳にするのは初めてだ」 双方いろいろと意見を述べ合った。しかし、松下側が熱心に説いていくうちに、やがて理解も納得も得られ、幸之助の提案どおり技術提携の話はまとまったのである。 *幸之助は常々、とらわれない素直な心で物事の本質をつかむことの大切さを訴えていたが、この契約の経緯も"何が正しいのか"を追求したゆえの結果とも言える。