AV用途でも有効!?オートフォーカスアイウェア「ViXion01S」を試す
■ ViXion今年の新モデル スマートデバイスのうち、アイウェアとして爆発的ともいえるヒット商品が、ViXionのオートフォーカスアイウェア「ViXion01」だった。2023年のクラウドファンディングで4億円超を集めたビッグプロジェクトである。 【画像】正面からの見た目 電圧によって度数が変えられるオートフォーカスレンズを搭載し、距離センサーで計測した距離に対して度数を自動的に調整する。いわゆる遠近両用メガネのようなことを、リアルタイムでやるというものである。 初代ViXion01は、筆者も昨年のInterBEEのブースで試用させていただいて、短時間ではあるがその性能を確認している。サイバーな見た目を敬遠する人もいたが、そもそも日常生活内で常用するものではないという印象を持っていたので、あまり気にならなかった。 そして今年の改良モデルが、「ViXion01S」である。レンズ部分は前作と同じながら、フレーム構造をかなり変えて、アウターレンズを装着すれば普通のメガネっぽく見える。 今回はデモ機をお送りいただいて、その使い勝手をじっくり試してみる。なお現在お借りしているのはまだ開発中のバージョンなので、最終仕様とは異なる可能性がある点をお断りしておく。 ■ より完成度の高い構造に 前作との相違点は、見かけ以上に大きい。全体としては、オートフォーカスレンズが搭載されたフレームと、そこの前面にはめ込むアウターレンズに分けられる。まず本体フレーム部分を見ていこう。 前作はツルの片側にバッテリーや基板部を逃がしたために、ツルの片側だけ太くなっていたが、今回は全てフレーム前面に収めたことで、ツル部分には特に機能はなく、左右対称となった。当然かけ心地としても片側が重い感覚もなく、普通のメガネと変わらなくなった。 また重量も前作から40%減の31gとなっている。ただしこれは本体フレーム部のみだ。ちなみに昨今の軽量フレームのメガネは20g以下が普通なので、31gでもまだちょっと重い方ではある。だが重量バランスが良いので、かけ心地としてはあまり気にならない。ただアウターレンズを取り付けると45gとなり、若干重くなる。 フレームの正面中央に距離センサーがあり、被写体との距離を常時測定する。その裏側にあるのが、近接センサーだ。これはメガネの装着の有無を検出して、電源を自動でON・OFFするのに使用される。 オートフォーカスレンズは左右にスライドできるようになっており、瞳のセンターに来るよう調整する。目の左右の距離は人によって個人差があるため、こうした仕組みが必要になる。両端にあるレバーは、左右それぞれの度数調整に使用する。 USB-C端子は充電用で、約3時間の充電で最大約15時間駆動できる。初代は最大約10時間駆動だったので、軽量化とともに大幅に省電力化されたのがわかる。なお初代にはスマホアプリが提供されており、度数のキャリプレーションがアプリ上からもできたが、01S用はまだリリースされていないようだ。Bluetooth機能自体は搭載されているので、近いうちに提供されるだろう。 今回特徴的なのは、アウターレンズがあることだ。ややフレームは太いが、いわゆるボストン型と呼ばれる形状に近い。このアウターレンズには、乱視用レンズなどの一般のレンズにも入れ替えられるという。オートフォーカスレンズだけでは乱視対応できないので、アウターレンズ側で乱視を補正するという考え方である。 また、サングラスレンズに入れ替えて、オートフォーカスレンズの存在を目立たなくするということもできるだろう。対応店舗については、現在複数のメガネチェーンと調整中だという。 ■ かなり狭い視野 では早速使用してみる。筆者の視力は0.01程度なので、近視としてはかなりキツイ方だ。さらに加齢による老眼も重なっているため、普段から遠近両用のメガネを使用している。遠近両用レンズは、上側が近視矯正度数で、下に行くほど度数が弱まるという構造になっている。実用上は、近くを見る際には視線を落とすのでそれで成立しているわけだが、度数のグラデーション部分で視力が出ないという宿命的な課題がある。 一方オートフォーカスレンズならば、真正面を見た状態で遠くも近くも見えるということで、遠近両用メガネとはまた違ったメリットがあるはずだ。 01Sのツル自体は普通のメガネと変わりないので、装着感は悪くない。ただ本物のメガネの場合は、レンズ幅やツルの長さにバリエーションがあり、頭の大きさにフィットするフレームサイズを選択するのが普通なので、このツルが極端に合わなかった場合には、何らかの工夫が要りそうだ。 左右のレンズ位置調整は、前方1mのターゲットに向かって調整するというのがセオリーのようである。片目をつぶり、もう片方を覗きながら、ターゲットがレンズ中央に位置するよう調整する。 度数調整は、右目から行なう。右側のレバーを前方に押しやると、度数が変化して次第にフォーカスが合ってくる。右側の調整で左側も同じように連動するので、左右の視力が同じ人は右側だけの調整で済むわけだ。左右の視力が違う人は、改めて左側だけを微調整するという流れである。 基本的にやることはこれだけで、あと近くも遠くも自動的にフォーカスが合うという仕組みになっている。メガネを外すと電源が切れるが、調整した度数はそのまま記憶されるので、再度装着した時にも調整は不要のようだ。ただ、現在お借りしているソフトウェアではまだ度数記憶機能が動いておらず、記憶動作は確認できていない。 レンズの内径はおよそ6mmしかないので、視野角はかなり狭い。どれぐらいかというと、皆さん両手をまっすぐ伸ばして「前にならえ」をしてください。見える範囲は、その両手のひらの間ぐらいと思っていただければほぼ間違いないだろう。 つまり視界としては、センターにビシッとフォーカスが合うエリアがあり、その周囲にはフォーカスが合わない視界が広がるという格好になるわけだ。またレンズ自体のフレームもかなり太いので、フォーカスが合う視野の周囲にデカい輪郭線が入ってくる。つまり、物理的に見えていない死角というのも出てくることになる。 モノとしては画期的だが、この狭い視野をどう使っていけるのか、というのが一つの課題になる。 ■ コンテンツ視聴・制作に使えるか まず手近なところで、パソコン画面を試してみた。目と画面までの距離は50cmぐらいであるが、筆者の視力では裸眼では見えない。手元には15インチと13インチのノートPCがあるが、15インチでは画面の端が視野角から外れてしまうので、画面の端の情報を把握するには首を動かさなければならない。通常のメガネであれば、視線移動だけで画面全体を把握できるため不便はないが、大型ノートでは若干厳しい。 一方13インチの場合は、大体画面全体がギリギリ視野角の中に入るので、問題なく作業できる。ただし手元のキーボードを確認したい場合は視線移動だけではカバーできないので、やはり頭ごと動かす必要がある。そもそも単に定点を見ているだけなら普通のメガネでも不自由はないわけで、オートフォーカスレンズのメリットはあまりないとも言える。 次にテレビ画面でテストしてみた。40インチテレビを2mほど離れた場所から視聴してみたが、この距離ならどうにか画面全体が入る。普通のメガネと違い、いくらでも度数調整ができるので、常にバッチリフォーカスの決まった視野が保証されるのは、普通のメガネにはないメリットだ。 手元のスマホ画面と見比べるような時は、01Sのレンズを通すまでもなく裸眼でも見えるので、レンズ越しではなく視線を下に向けるだけで済む。このように上下で極端に差がある距離の場合は、逆にレンズユニット径が小さいことが功を奏すケースもある。 2.8m離れた距離で、80インチほどのサイズに投影したプロジェクタでコンテンツ視聴してみた。画面の両脇が視野角内から少しはみ出してしまうが、多くのコンテンツは画面中心付近が見えていれば大体わかるので、ストーリーを追うには十分である。 ただ照明を消した中で使用すると、左側でずっとLEDが点滅しているのが視界に入ってくる。昼間はそれほど気にならなかったが、そもそも装着し続けている状態で、何らかのステータスを示し続ける必要があるのだろうか? 暗い中ではかなり邪魔なので、10秒ぐらい点滅したらあとは消えるとか、問題がある場合のみ点滅するというUIであるべきだろう。 左右のレンズ位置は、最初1mの距離で調整したが、視聴対象の距離が変われば当然左右の瞳孔間距離も変わる。対象距離に合わせてレンズ位置を調整すると、ある程度横方向には視野角を広げることができる。 続いてカメラ撮影時に使用してみた。商品撮影の場合は、被写体とカメラの液晶画面を見比べながら撮影することになるが、3インチ程度の液晶モニターに対してもきちんとフォーカスが合うのには驚いた。 これまでは、液晶画面が目に近すぎると遠近両用メガネでも見えないので、メガネをおでこに上げて確認するみたいな非常にオジサンくさいアクションになっていたが、01Sならかけっぱなしでかなりの近接距離まで見えるのは便利だ。 一方で01Sを通してファインダは見ることができない。なぜならば、距離センサーが眉間部分にあるので、小さなファインダ内にはフォーカスが合わせられないからだ。 屋外の風景撮影では、無限遠と近接を見比べることになるので、01Sの性能は発揮しやすい。かなりの遠景でもその場で度数を調整すれば、遠くまでバッチリ見える。だがその反面、フォーカスが合う視野が狭いので、風景の中からいいアングルを探すという作業がやりづらい。真ん中がみえているだけなので、異様に周囲をキョロキョロする人になってしまう。 ■ 総論 ViXion01Sは、距離のセンシングとそれに対するオーフォーカスレンズの応答性が非常に速く、見る位置を移しても途中でフォーカスが遷移しているなと感じる瞬間はほとんどない。どこを見ても瞬時にフォーカスが合っているというのは、思った以上に快適だ。視野角がそれほど広くないので、真正面さえセンシングしていれば問題ないということだろう。 いろんなシーンで使ってみると、オートフォーカスの利便性以上に、距離に合わせてその場で度数が変えられるのが便利だ。度の強い人は、無限遠に視力を合わせると1m程度の距離では度がキツすぎる状態になり、目が疲れやすくなる。近く用と遠く用で度数の異なるメガネを使い分けている人もいると思うが、そうしたメガネのかけかえがなくなるのはメリットがある。 一方で、やはり視野角が狭いという点をどう捉えるのかが課題である。オートフォーカスレンズの大型化に向けて研究開発を続けているというが、あともう少し広ければ対応できる範囲もかなり広がるように思う。さらにいえば、レンズ周りのベゼルというかエッジ部分の幅も細くできれば、穴を覗いている感も減少するのではないだろうか。 今回はテストしていないが、アウターレンズに遠近両用ではないノーマルな矯正度数のレンズを入れるというのはメリットが大きいかもしれない。周囲もなんとなく見えて、中央部はしっかり見えるというのもメリットがあるし、そのレンズでは見えづらい近距離にオートフォーカスレンズの力を借りるということもできそうだ。この辺りは実際に発売されてから、多くの人のトライアルによってその効果がデータとして集まってくるだろう。 もう一つデメリットとしては、アウターレンズの存在によって一応普通のメガネっぽく見えるものの、正面から見ると相手からは自分の目が見えなくなるところは、小さくない課題であろう。目と目を見ながら話すといったことが阻害されるのは、コミュニケーション上の障害になりうる。こちらは見えているので平気だが、相手方から見たらこちらが何を考えているか読み取れず、不安になる。妻に装着した姿を見せたところ、「なにそれキモい」という感想が返ってくることからしても、普通の人には受け入れがたい姿であることは間違いない。 ゆくゆくはオートフォーカスレンズの面積が拡大し、普通のメガネレンズぐらいのサイズになることが望ましいわけだが、そこまで至るにはかなりの技術的ハードルがある。今ある技術の範囲で、できることを探していくというアプローチが必要だろう。 人間の視野とは何か、ということを深く考えさせられるデバイスである。
AV Watch,小寺 信良