シャンシャンの狂犬病ワクチン接種に 父親リーリーの精液保存、妊娠&出産 獣医師が担うパンダの未来
赤ちゃんパンダを育てるのは手術と同じくらいの緊張感
自然交配や人工授精が成功したら「妊娠しているか」「出産はいつか」を見極めることが重要です。受精卵が子宮内膜に着床すると妊娠しますが、パンダは着床が遅れる動物。妊娠時期の推測は容易ではありません。しかも赤ちゃんは大人の約1000分の1、わずか100~200gほどの体重で生まれるため、母親の外見からは妊娠を判断できません。そこで血液検査などをして、妊娠の成立と出産時期を推測しています。 人工保育も準備します。パンダは問題なく子どもを育てあげることが比較的難しい動物とされ、人の手で母親のパンダから搾った母乳を赤ちゃんパンダに飲ませることもあります。 赤ちゃんが生まれてから這って移動できるようになるまでの約4カ月間、獣医師と飼育係と補助の職員は交代で24時間、子育てに奮闘します。「鳴いてじたばた動き回る小さな赤ちゃんに対して行う全ての行為は、私たちにとって普段の手術と同じくらい緊張感マックスで、経験した後は、思いのほか筋肉痛になっています」(獣医師)
狂犬病ワクチンを接種
パンダの健康診断は、季節に関係なく、随時実施しています。その一つは糞の検査。野生のパンダの回虫感染率はほぼ100%との報告があるため、糞を検査して感染をチェックしています。検査のほか、回虫用の駆虫薬もエサに埋めるなどしてパンダに与えています。投薬という面では、竹にダニが混ざることがまれにあるため、ダニ予防の薬をパンダに塗ることもあります。 また、中国では犬ジステンパーウイルス感染症や狂犬病の発生が比較的多く、万が一、野良犬が入り込むなどしたらパンダも感染する恐れがあるため、パンダに予防接種をする傾向にあります。上野動物園で飼育するパンダには予防接種をしていませんが、2023年2月21日に中国へ渡ったメスのシャンシャン(香香)には「中国へ帰るとなると危険性があるので、帰る前に狂犬病ワクチンを打っています」(獣医師)とのこと。 ジステンパーウイルスなどにもちゃんと抗体価があるか、もし感染しても重症化しないか確認してからシャンシャンを中国へ送り出したそうです。 中川 美帆 (なかがわ みほ) パンダジャーナリスト。早稲田大学教育学部卒。毎日新聞出版「週刊エコノミスト」などの記者を経て、ジャイアントパンダに関わる各分野の専門家に取材している。訪れたパンダの飼育地は、日本(4カ所)、中国本土(11カ所)、香港、マカオ、台湾、韓国、インドネシア、シンガポール、マレーシア、タイ、カナダ(2カ所)、アメリカ(4カ所)、メキシコ、ベルギー、スペイン、オーストリア、ドイツ、フランス、オランダ、イギリス、フィンランド、デンマーク、ロシア。近著に『パンダワールド We love PANDA』(大和書房)がある。 @nakagawamihoo パンダワールド We love PANDA 定価 1,650円(税込) 大和書房
中川美帆