「習近平がトランプを応援」そう言える5つの経済的側面、トランプが掲げる高関税が長期的には中国を利する
習近平にとっても厳しい経済課題
地経学、経済安全保障論を専門とするアガサ・デマレによる論説で、中国にとってトランプが大統領となる方が利益になると指摘するものである。視点が経済面に限られていること、単純化した構図で見ていることが気になるが、米大統領選挙後の米中関係を考える素材として意義がある。 トランプが大統領に再選されれば、米国主導の国際秩序が混乱、弱体化することは必至であろう。最近のトランプの北大西洋条約機構(NATO)についての発言(大統領在任中、NATOの「ある大国」の大統領から、NATO加盟国の軍事費負担が不十分な状況でロシアから攻撃された場合の対応について聞かれた際、米国はその国を守らず、ロシアに「やりたいことは何でもするよう促す」と発言した旨を2月10日のサウスカロライナ州の選挙集会で述べたもの)はそのリスクを改めて示した。 トランプ当選時に、そうした混乱、弱体化の「振れ幅」をどれだけ小さなものとするかが日本や欧州にとっての課題となるが、中国にとってはその「振れ幅」が大きくなることが好都合となる。上記論説で、中国がトランプ政権下での「混沌、不和、米国の威信への打撃」から利益を得ると述べているのは、中長期的な国際秩序への影響を考えれば首肯できる指摘である。 一方、中国も足下の問題が深刻となっている。不動産バブルの崩壊、供給能力過剰、輸出不振などにより、資産の目減り、若年層の失業、公務員への給料の遅配などの問題が表面化し、習近平自身が経済的苦境に言及せざるを得ない状況にまで来ている。共産党としては、これが社会不安や現体制への不満の表出に至らないようにすることが当面の重要課題となっているはずである。
中国に対して厳しい立場で臨むというのは、米国において超党派の支持を得られる数少ないアジェンダであるが、貿易面でより強硬な措置を取るのは共和党のトランプであろう。選挙での公約をそのまま実行するかは定かではないが、中国にとって、経済面で直ちに生じる「痛み」は、トランプの方が大きいと予想される。この論説が述べているように「大きな視野から見れば、欧米が経済紛争を始めて争うことの方が重要」と余裕を持って構えるわけには行かないだろう。