【第1回】セアカゴケグモが増えた夏、そして忘れ去られた夏
特にこの数年でこのクモが発見された北陸では、北陸新幹線の開通荷伴う再開発が盛んに進められており、また、東北太平洋岸では、3.11大震災の復興が急がれており、これらの開発・復興事業に伴って、さまざまな物資・資材が大量の運搬車両によって運び込まれることで、セアカゴケグモの随伴侵入リスクも高まったものと推察されます。 加えて、近年の貿易の自由化、グローバリゼーションの波が、海外からの物資の輸入量の増大をもたらし、セアカゴケグモも各地の国際港から新たに侵入して来ている可能性が高いのです。 このように、日本および世界の環境変化と社会・経済構造の変化に伴って外来生物の侵入リスクも大きく変動しています。これまで生物学的にも予想すらしなかった生物進化の異変が、変わりゆく地球環境の中で起ころうとしていることを、セアカゴケグモの増加は物語っているのです。 セアカゴケグモの人体へのリスクはそれほど高くはないと書きましたが、数が増え、日本の生態系に蔓延するとなれば、生物多様性の劣化の問題として本種に対する対策が必要になります。現在、本種は環境省の外来生物法における特定外来生物(注)に指定され、政府・自治体による駆除が進められています。 (国立研究開発法人国立環境研究所・侵入生物研究チーム 五箇公一) ---------- (注)外来生物法は正式名称を「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」という外来生物を規制・管理するための法律。2005年から施行された。専門家会合によって外来生物のリスク評価が行われ、生態系および人間社会に対して悪影響を及ぼすリスクが高い種を「特定外来生物」に指定する。特定外来生物は輸入すること、飼育すること、生きた個体を移送すること、野外に逃がすことが禁止され、違反者および違反企業には重い罰則規定がある。またすでに野生化した特定外来生物は政府および自治体が責任を持って駆除することとされる。