『お母さんが一緒』橋口亮輔監督 リハーサルの雑談から生まれるものとは 【Director’s Interview Vol.420】
空間を把握して初めて芝居が見えてくる
Q:旅館の襖や柱が効果的に使われていますが、それらを使った導線や構図はどのタイミングで考えられているのでしょうか。ちなみに柱は邪魔だと思われましたか。 橋口:それは思いましたよ。ロケハンに行って「邪魔だな、この柱」と(笑)。でもあれが日本家屋の空間の良さですよね。昔の日本映画なんかは、柱と襖があって空間が分かれているので、そこを出入りすることがお芝居になっています。だだっ広い一つの部屋だったら逆につまらなかったと思いますね。小部屋があったからこそ、人物の動きなりお芝居なりを色々と工夫出来たなと。 本当はセットを作りたいですよ。でも、諸事情で作れないからロケセットでやらなきゃいけない。そうなると理想的なところがなかなか無い訳です。最初は部屋にお風呂が付いている内風呂という設定でしたが、それはもう無理でしたね。「ここだったら!」という場所が長野にあったのですが、結局そこもダメになり、山梨で旅館を二つお借りして、そこを組み合わせて一つの旅館に仕立てました。そうやってロケ先が何度も変わったものですから、その度にたくさん画コンテを描きました。どこでも撮れなくはないのですが、そこの空間を自分に入れないと芝居が見えてこないんです。空間を把握して、人物がここにいて、このセリフを言って、この感情だったら、ということが掴めて、初めて効果的な画作りが見えてくる。 そうやって場所が変わるごとに、毎回画コンテを描き直したからこそ、人物を無理なく自然に動かせたと思います。例えば、弥生が「あなたまでお姉ちゃんのせいにするの? 私なんか死んだ方がいいのね!」と言って、出口のところに行って襖を開けようとするんだけど、清美に閉められる。また開けようとしても閉められる。そうやって襖の開け閉めをしながら言い合いをしているシーンがあるのですが、あれは僕が指示をしつつも、襖の動きなどは江口さんが古川さんと芝居をやっていく中でああいうことになったんです。あれは面白かったですね。やっぱり事前にリハーサルをやって、お芝居が入っているからこそ、ああいうことがその場で自然に出てくる。役者さんを型にはめるようなことをするのではなく、面白いものは都度採用していきました。
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