「次は優勝」明豊監督の師・高嶋仁さんのほほ笑み 選抜高校野球
第93回選抜高校野球大会は最終日の1日、兵庫県西宮市の阪神甲子園球場で決勝が行われ、3年連続5回目出場の明豊(大分)は2年連続12回目出場の東海大相模(神奈川)に2―3でサヨナラ負けし、春夏通じて初の甲子園優勝はならなかった。ただ、明豊の川崎絢平監督(39)の恩師にあたる智弁和歌山前監督の高嶋仁さん(74)は「今度は優勝でしょう」とほほ笑む。その理由とは。 【今大会のホームラン】 「僕の高校野球の幹は、智弁の野球」。川崎監督はそう断言する。和歌山県出身で、高校時代は高嶋さん率いる智弁和歌山の内野手として3年連続で夏の甲子園に出場し、1年生だった1997年には全国制覇も果たした。卒業後は立命大、強豪クラブチームの和歌山箕島球友会(現マツゲン箕島硬式野球部)でプレー。母校のコーチを経て2011年に明豊の部長に就任し、12年8月から監督を務める。甲子園初采配だった15年夏は初戦で仙台育英(宮城)に大敗したが、17年夏に8強入り、19年春には4強と着実にステップアップしてきた。 高嶋さんが明豊の今後に期待するのは、「甲子園で味わう悔しさが監督を成長させる」と知っているからだ。自らも智弁和歌山監督として85年春に初出場したが、92年夏まで5回連続で初戦敗退。5回目の出場の際に観客から「よう来たな。また負けにきたんか」とやじられた。試合を振り返り、守りのミスが敗因と分析。同じ和歌山で春夏計4回優勝の箕島を参考に守備を鍛え上げた。代名詞の強打は、堅固な守りという土台があってこそだった。 今大会の明豊も堅守が光った。5試合全てが2点差以内で、いずれも無失策。高嶋さんは「ちゃんと守る智弁の野球だった。内野手だった彼(川崎監督)は、野手の育て方がうまい。きちんと守っていたからこそ、小差でも勝ち上がれた」とたたえ、「もう少し打力が加わったら優勝できる」と期待を寄せた。継投で勝ち上がるパターンも同じで、優勝していれば第66回大会(94年)の智弁和歌山以来27年ぶりとなる「全試合継投」での頂点だった。 決勝前日、高嶋さんは川崎監督に電話し、「優勝するのはちょっと早いぞ」と冗談を飛ばした。春夏通じて初の決勝に臨む教え子をリラックスさせるとともに、敗れても糧になると知っているからこそのエールだった。「監督も今度甲子園に来たら優勝という気持ちになるし、選手たちもそういう気持ちでチームを作っていく。甲子園に出ることが経験になる」と語る。 現在、智弁和歌山は川崎監督の2学年上で、プロ野球・阪神などでプレーした中谷仁監督(41)が率いている。高嶋さんは「中谷も『くそー』と思ったんじゃないですか」と笑い、愛弟子2人が甲子園で顔を合わせることを願っている。後輩の準優勝は、中谷監督にとっても大きな刺激になるはず。高嶋さんが待ち望むカードが大舞台で実現するのも、そう遠くはなさそうだ。【石川裕士】