「統合失調症の姉を南京錠で閉じ込める」20年間を記録した映画に反響 なぜ家族は追い込まれてしまうのか
「家族は意図的に監禁しているわけではありません」
なぜこのような事態が起こってしまうのか。精神疾患患者の家族が結成した「全国精神保健福祉会連合会(みんなねっと)」の小幡恭弘氏は、J-CASTニュースの取材に対し、いくつかの要因を指摘する。 まず、精神疾患に対する正しい知識や理解が浸透していないことだ。患者本人や家族、地域住民を含む一般市民のあいだに精神疾患への偏見が根強く残っているため、病気の自覚や受診の遅れにつながっているという。 また、医療機関や行政の対応にも課題がある。一般的に、本人の来院や来所が支援の前提となっているが、精神疾患を抱える患者は自身の症状を認識しにくい傾向がある。そのため、受診を拒むことも多い。その家族が外部に相談しても、解決の糸口が見えずに疲弊し、家族だけで問題を抱え込んでしまう。すると、どうなるか。小幡氏は次のように説明する。 「周囲から見れば監禁に見えてしまうかもしれないですが、家族は意図的に監禁しているわけではありません。適切な支援や医療を得られないまま追い詰められた結果、家族を守りたいという思いからそうせざるを得ない状況に追い込まれているのが実態だと思います」
地域サービスの不足が問題だ
精神疾患患者の家族支援に詳しい、大阪大学教授の蔭山正子氏(公衆衛生看護学)にも話を聞いた。 家族が患者を自宅に閉じ込めてしまうケースの多くは、医療機関や行政の支援を求めているにもかかわらず、それが叶わなかった状況で起きていると指摘する。 「家族は病院に連れて行きたいと考えますが、患者本人が受診を拒否する場合、無理に連れて行くことは極めて困難です。医療機関や行政に助けを求めても『ご家族で説得してください』と言われる。どうすることもできない状況に追い込まれていきます」 さらに家族は、患者の症状が悪化すると家の外に飛び出したり、近隣とトラブルを起こすのではないかと不安を抱いたりする。すると、自宅から出ないように細工をしたり、見張ったりせざるを得なくなる。「家族自身も心身ともに疲弊し、トラウマを抱えたり、うつ状態に陥ったりすることもあります」と説明する。 蔭山氏は、訪問診療などの地域サービスが不足していることが問題だと指摘する。 他国に比べて精神科病床が多い日本では、入院治療中心の医療体制を長年続けてきた。医療資源の多くが病院に集中し、地域の支援先や治療先が少なくなっている。 「無理に病院に連れて行って治療するというスタイルを続ける限り、この問題は解決しません。精神科医や看護師、ソーシャルワーカーが家庭を訪問し、そこで治療やケアを提供する体制づくりが重要です」 こうした体制が確立されれば、患者の症状が悪化しても、訪問診療で適切な投薬を行うことで、多くの場合は病状が改善する。その上で、本人が落ち着いた状態で通院できるようになれば、強制的な入院を避けることもできると、蔭山氏は話している。