【週末映画コラム】まるでギリシャ悲劇のような『アイアンクロー』/ウエルメイドなヒューマンコメディー『ブルックリンでオペラを』
【週末映画コラム】まるでギリシャ悲劇のような『アイアンクロー』/ウエルメイドなヒューマンコメディー『ブルックリンでオペラを』 1/2
『アイアンクロー』(4月5日公開) プロレスの元AWA世界ヘビー級王者フリッツ・フォン・エリック(ホルト・マッキャラニー)に育てられた、ケビン(ザック・エフロン)、デビッド(ハリス・ディキンソン)、ケリー(ジェレミー・アレン・ホワイト)、マイク(スタンリー・シモンズ)の兄弟たち。 1980年代初頭、彼らは、父の教えに従いプロレスラーとしてデビューし、プロレス界の頂点を目指していた。 だが、NWA世界ヘビー級王座戦への挑戦権を得たデビッドが、日本でのプロレスツアー中に急死したことを皮切りに、フォン・エリック家は次々と悲劇に見舞われ、いつしか「呪われた一家」と呼ばれるようになってしまう。 鉄の爪=アイアンクローを得意技としたアメリカの伝説的なプロレスラーと息子たちについての実話をベースに描く。監督・脚本はショーン・ダーキン。 子どもの頃、父フリッツとジャイアント馬場やアントニオ猪木との闘いを夢中になって見ていた者としては、感慨深いものがあった。 フリッツの手首をつかんで、何とかアイアンクローやストマッククローをかわそうとする馬場。それでも食らってしまい、苦悶(くもん)の表情を浮かべるという一連の動きを、友だちと一緒によくまねをしたからだ。 この映画には、馬場や猪木こそ出てこなかったが、ブルーザー・ブロディ、ハーリー・レイス、リック・フレアーなどといった連中が、兄弟たちと繰り広げる試合のシーンは、今とは違う当時のプロレスが再現されており懐かしい気分で見た。 ダーキン監督は大のプロレスファンとのこと。それ故、プロレス、あるいはレスラーたちに対する愛にあふれている。 兄弟を演じた俳優たちもレスラーらしく肉体改造をして挑んでいたが、中でもエフロンの筋骨隆々ぶりは、別人かと思うほどだった。 さて、フォン・エリック家を襲った悲劇については大まかには知っていたのだが、改めてその裏側を知らされて驚いた。 ダーキン監督が「まるでギリシャ悲劇のようだ」と表現するように、父権主義の功罪、父と子、兄弟同士の愛憎、相克が描かれていくのだ。 悲劇の連鎖とはこういうものかとやるせない思いがしたが、最後はわずかな希望が見えるところに救われる思いがした。 ただ、自分のように彼らのことを多少なりとも知っている者にとっては興味深いものがあったが、彼らのことを知らない人たちの目には、この映画はどう映るのだろうかと思った。