県境越えた初の国立大経営統合 名古屋大・岐阜大、両大学長インタビュー
人は減らさず、「ハンコの数」を減らしていく
では、実際に4月から何が変わり、何が変わらないのか。基本的なことだが大学名は名古屋大学、岐阜大学で変わらない。学部、学科の構成も変わらない。「他に変わらないものは?」という質問に、松尾総長は「入試は変わらない。他は……そう聞かれると答えにくい。変わらないものの方が多い」と苦笑した。 森脇学長は「大学は教育研究組織だから、両大学に教育研究評議会が置かれるという構造そのものは変わらない」。一方で、法人として意思決定する理事会は両大学から新しい法人に移行し、一本化される(正式名称は「機構役員会」)。その理事会と教育研究評議会の間に「運営会議」という組織をそれぞれに新設。「この運営会議が機構の法人と各大学を結ぶパイプラインの役目を果たす。そこから下の構造は変わらない」と森脇学長は重ねて強調した。 事務管理部門に関しても「人員は減らさず、経費は増やさず」を原則にしたという。新法人運営という一段階上の業務は増えるが、各大学で共通の事務は2つを1つに統合していく。森脇学長によれば「決裁のハンコの数は増やさない、できれば減らそう」と呼び掛け、事務的な流れをすべて見直したという。 「今より費用をかけず、節約をした上で、どう新しい事業にリソースをひねり出すかが課題だった。その形を1年以上かけて模索し、何とか4月にスタートを切る。まだ理想の姿ではないかもしれないが、走りながらやっていく」と松尾総長は表情を引き締めた。
学生は図書館を共有、将来的なシステム整備も
一方、学生にとっては何が変わるのだろうか。「当面のメリットは、両大学の図書館を自由に利用できること」と松尾総長。例えば、岐阜大学に通っている愛知県出身の学生が夏休みに愛知県の実家へ帰ったとき、より近い名古屋大学の図書館を利用できる。逆もしかりだ。ただ、こうした施設の相互利用などは、まだ一部にとどまる。 実は、オンラインの遠隔講義のシステムや医学教育のセンター機能などは、岐阜大学の方が先行。将来的に名古屋大学の方がシステムを整備し、共有していくことになりそうだという。そうした共通の教育環境は「5年先、10年先」を見据えて整え、法人の中心拠点「アカデミックセントラル」と位置付ける。さらに生命分子化学の「糖鎖」研究、航空宇宙、医療情報、農学の各分野で新拠点を立ち上げていく方針だ。 「変な言葉だが、思いっきり“吹こう”と思う」と森脇学長。大風呂敷を広げて、自分たちや地域を鼓舞していくという意味のようだ。松尾総長は「教職員も法人統合によって『何ができるのか』を積極的に模索するマインドに徐々に変わりつつある。機構直轄の5事業は、その具体的な取り組み。今後は一法人として一歩も二歩も踏み込んだ連携をして、東海地域ならではの次世代型の大学づくりをやっていきたい。それがうまくいけば、迷っている地域も次々に飛び出し、やがて日本全体を変えていくだろう」と意気込みを示した。 出来上がったばかりだという新法人のロゴは、東海の頭文字「T」と国立(National)の「N」を合わせたマークに「MAKE NEW STANDARDS.(新しい標準を作る)」の標語を入れた。新しい名刺や記者会見時の背景パネルに使われる予定だという。 (関口威人/nameken)