〈増え続ける不登校〉「逃げることも頑張らないことも正しい選択」教え子4人の自死、娘の不登校で“学校教育の矛盾”に直面した元中学教員の思い。不登校の親子だけが参加する離島キャンプとは
最新の文部科学省の発表によると、2022年度の小中学校の不登校児童数が過去最多の約30万人に上ったとされる。近年、顕著に増加する不登校の子どもたち。そんな中、日本海に浮かぶ島根県の離島・隠岐の島で不登校の親子が集うキャンプが静かに注目を集めている。企画したのは6年間娘が不登校だった元中学教員。どんな思いでキャンプを企画したのか話を聞いた。 【画像】「正直あまり行きたくなかった」と話していた子どもが涙ながらに「また来ます」と叫ぶ隠岐の島合宿
14人の不登校児と島民が織りなす離島合宿とは
日本海に浮かぶ島根県の離島・隠岐の島町。島民約1万4000人が過ごす自然豊かなこの町に今年7月下旬、全国各地から不登校の子どもたち14人とその親11人の計11組25人が集まった。 出身は北海道から東京、広島など津々浦々で、小学2年生から高校1年生まで年齢層も幅広い。久しぶりに外に出た子どももいて、みんなどこか緊張した面持ちだ。 ここから不登校児と島民による2泊3日の離島キャンプが幕を開ける。海に繰り出しての魚釣りやカヤック、自然を生かした工作活動に、夜は海辺でのBBQや文化会館を貸し切っての音楽ライブ…そしてテントとログハウスで宿泊。 当初は「正直あまり行きたくなかった」と話していた子どもも、最終日にはフェリーの中で「また来ます」と涙を流しながら叫ぶ姿があった。 昨年から開催され、静かに話題を呼んでいるこのキャンプ。企画したのは一般社団法人「アナザーステージ」代表理事の渡部正嗣さん(59)だ。 「不登校の子どもたちは自己肯定感が低く、自分に自信を失ってしまった子どもたちが多い。『君たちは何も悪くないし、もっと自由に生きていい』、そんなことを隠岐で伝えたいと思いました。みんな間違いなく強い力を持っていますから、隠岐での経験を自信に変えてほしいんです」 渡部さんがこの活動を始めるきっかけは、次女の6年間に及ぶ不登校だった。
企画のきっかけは娘の中高6年間の不登校
島根県で中高の英語教員として働いていた渡部さん。高校時代、暴力や暴言で生徒を縛り付けるタイプの教員が大嫌いで、「俺がやったほうがマシだ」と教員の道へと歩みを進めた。 しかし教員として働き始めると、いつしか学生の頃に忌み嫌った先生のように、自身も気づかないうちに力で生徒をコントロールしていた。それでも教員間の信頼は厚く、「自分は指導力がある」と自負していた矢先、次女が不登校になったのだった。 明るくて天真爛漫でいつも輪の中心にいるような次女から少しずつ笑顔が消え始め、不登校になったのは中学1年の2学期。いろんな感情を親にぶつけ、摂食障害を患った。食べても吐いてしまう次女の姿にショックを受け夫婦で心身の不調に陥るなど、「あのときは本当に大変でした」と渡部さん。 「もうここにいたくない」 そんな次女の言葉を機に、摂食障害の人を受け入れてくれる施設を探し、いくつか提案したところ、「ここに行きたい」と次女が選んだのは沖縄県宮古島の施設だった。 数か月間、宮古島の施設で過ごし、帰宅後は母と一緒に料理をしたり、少しずつ穏やかになっていったという。中学2年のとき、英語学習に興味を持ったことがきっかけでニュージーランドの語学学校へ通った。「正直、ニュージーランドに行くと言い出したときは跳びあがるほどびっくりしましたけど、今はとことん本人がやりたいことをやらせるしかないのかなと思って腹をくくりました」(渡部さん) 中学は不登校のまま卒業し、高校からは通信制の学校を転々とし、最終的には大阪の通信制高校に入学。大阪で一人暮らしをしながら高校卒業認定資格を取得後、大学受験に挑み、関西大学へ入学を決めた。 「今までの6年間は何だったんだ」(渡部さん)と思うほど、大学生活をエンジョイし、その後は日産自動車へ就職。現在は結婚し、3児の母として充実した日々を送っているという。 「当時は、『教員の子どもが不登校になるなんて』と現実を受け入れられなかった。人の目も気になるし、恥ずかしいとか申し訳ないとか、教員という立場での保身の気持ちが強かった。だけど娘が不登校の最中でも果敢に挑戦する姿を見て、徐々に受け入れられるようになりました。 そもそも、私は教員として『学校できちんと勉強しないと社会ではやっていけないぞ』と強い姿勢で今まで指導してきましたが、学校教育って一体なんなんだろうって一種の疑問や違和感さえ芽生え始めたんです」
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