厳戒態勢でゴールデビューした13歳・久保の潜在能力
後半21分にベンチへ退くまで、久保はチーム最多となる8本のシュートを放った。地をはうようなミドル弾もあれば、左サイドからのクロスに左足のアウトサイドを合わせながら右ポストに嫌われた惜しいボレー弾もあった。 しかし、結果的に久保のゴールが決勝点となり、チームを首位に押し上げた試合後に、ヒーローの喜びの声を聞くことはできなかった。メディアから大きな注目を集めていた一戦を前に、リーグ側からは「当該チーム同士の話し合いで取材方法を決めてほしい」という通達が届いていた。 マリノス側との話し合いの結果、久保本人だけでなく、両チームの監督及び選手への個別取材を許可しないことが確認された。FC東京の広報部は「注目していただけることは非常に嬉しい」と前置きした上で、異例にも映る措置を取った理由をこう説明する。 「FC東京としては決して久保が特別扱いされることなく、他の選手たちと同じ土俵で、同じ目標へ向かって成長していってほしいと考えています」 久保は2011年夏に、川崎フロンターレU‐10からバルセロナの下部組織に入団した。日本国内で実施されたバルセロナのキャンプで見染められたことがきっかけとなり、リオネル・メッシらを育てた名門のきめ細かい指導を受けながら、確実に成長のステップを刻んでいた。 しかし、18歳未満の国際間移籍を原則禁止とする国際サッカー連盟のルールに、バルセロナが抵触していることが2014年春に発覚。以来、公式戦に出場できない状況が続いた久保は、今後も状況が改善されない可能性が極めて大きいことを受けて退団・帰国を決断した。 自身の預かり知らないところで生じた問題で、夢をあきらめざるを得なかった無念の思い。バルセロナ帰りという肩書に対して、否が応でも浴びせられる好奇の視線。それらを乗り越えた上で、シーズン途中の5月から加わった新天地へ溶け込んでいかなければならない。 久保は6月4日に14歳となる。多感な時期にいる中学2年生から可能な限りプレッシャーを取り除き、大好きなサッカーに集中できる環境を整えてあげたい。FC東京側が取った一連の措置に、久保の潜在能力を評価する森山監督も理解を示している。 「マスコミの方に言うのも何だけど、調子のいいときには持ち上げて、調子が悪くなれば伸びていない、あるいはクラブのやり方がどうのこうのとなってしまいますよね。この年代は体の成長もあるし、精神的にも不安定なところで悪くなっていくこともある。注目されすぎたりすると、ちょっと上手くいっただけで本人が勘違いすることもある。その意味で周囲の大人や取り巻きは慎重にやらないといけない」