スバルらしさとは水平対向エンジン? 新戦略シャシーに見る将来
スバルブランドとは何か?
問題はそのスバルらしさを短絡的に水平対向エンジンに求めていないかということだ。新世代プラットフォームは、スバルのコア技術である「水平対向エンジン」、「シンメトリカルAWD」、「アイサイト」を軸に構成されている。中小規模の自動車メーカーがモジュール化を考える時、エンジンラインナップの整理は重要な課題である。一例としてはボルボの「全車種4気筒以下」という戦略がある。1.5トンのCセグメントから2.3トンの大型SUVまで同じブロックのエンジンで走らせる。それによってシャシー側に、異なるサイズのエンジンに対応させる余分なスペースが要らなくなり、合理的な設計ができる。そういう意味ではフラット4に特化したシャシーは正解だと思う。 ただし、中期戦略を担うエンジンとしてフラット4が最適かというのはまた別の問題だ。個人的にはそのフィーリングも含めてフラット4は面白いエンジンだと思う。しかし燃費と排ガスの問題への今後の柔軟性を考えるとどうしても不安があるのだ。左右バンクに分かれて表面積が大きいために熱損失が大きい。吸排気デバイスや排ガス対策装置が左右バンクにそれぞれ必要になって高コストになりやすい。さらに構造上、それらの機器のレイアウトスペースが制限される。「それはV型だって同じだろう」という人がいるが、昨今のV型エンジンが搭載されるクラスと車両価格を考えればスペースとコストを反映できる余地に差があることは理解できるはずだ。
例えばポルシェは、911とボクスター系以外の車種のエンジンはすでにV6または直4で、販売台数で見ればすでにそちらが主流だ。ポルシェのエンジニアリング力をブランドイメージとしながら、水平対向以外でもポルシェはポルシェという価値の転換を成立させている。再量販車種になったポルシェ・マカンはシャシーもエンジンもアウディQ5と同じだ。それでもポルシェとして認識され、ポルシェの価格で購入してもらえることこそがブランドの力だ。 あれだけ直列6気筒に拘っていたBMWも今やかつて自慢だったストレート6は例外扱い。過給圧違いの4気筒エンジンを並べて違う値札を下げて売っている。 規模はもっと小さいがロータスも同じ。トヨタ製V6エンジンを積んだエヴォーラ400に1400万円の正札を下げて平気で売ってしまう。ポルシェの構成部品調達にはフォルクスワーゲングループのバックアップがあっての話だが、それを言うならスバルにはトヨタの後ろ盾があるはずだ。ポルシェは「フラット6だからポルシェ」とは言わないし、BMWも「ストレート6にあらずばBMWにあらず」とは言わない。ロータスも「ロータス・ツインカムだからロータス」とは言わない。どんなエンジンを使ってもその走りの質や性能がポルシェやBMWやロータスらしくあることにこそブランド性がある。スバルにもそれはできるはずだ。 燃費と排ガスの将来性が厳しいエンジンから上手くシフトしてみせた例としてはマツダがそうだ。ロータリーのマツダというイメージをマツダは諦めたわけではない。しかし現実的な選択肢として、第二のイメージリーダー、ディーゼルにビジネスの重心を移した。ポルシェもマツダも燃費と排ガスで不利なエンジンを否定すること無くイメージリーダーとしていただき続けながら、ビジネスの中心はしっかりとシフトさせている。マツダがロータリーを主力とすることに固執し続けていたら現在メーカーとして存続していたかどうかは甚だ疑わしい。 スバルがフラット4の燃費と排ガス技術を磨き、他社の競合車種に引けを取らないレベルで追従して行かれればそれはそれで問題ないのだが、かなり茨の道だと思う。「万が一ついて行かれなかったらどうするのか?」。という問いにスバルは次の回答を用意しているような気がする。新世代プラットフォームの発展性を示す文中に「電気自動車」という文字が書き込まれているのだ。スバルファンはそれを受け入れられるのだろうか? さて、スバルの大勝負「SUBARU GLOBAL PLATFORM」はおそらく素性の良いものになりそうだ。現時点で開示されている情報から見る限りそう感じる。ただし、それはスバルが内燃機関に関して、水平対向に全て賭けることを決めた大きなターニングポイントでもある。スバルの先行きに注目して行きたい。 (池田直渡・モータージャーナル)