感染力はインフルエンザの6倍!マスクでは防げずワクチンも不足「麻疹(はしか)パンデミックの現実」
人気ロックバンド「BUMP OF CHICKEN」が3月6日に大阪城ホールで行ったライブの観客の中に麻疹(はしか)に罹った患者がいたことが公式サイトで報告され、医療関係者たちに緊張が走っている。2月以降、計8人の麻疹感染者が報告されていたが、いずれも2月24日にアラブ首長国連邦(UAE)から関西空港に到着した旅客機の乗客だった。 【画像】ぜ、全然ない…! 在庫切れが続く希少な麻疹ワクチンの現物 人気女子プロレスラー、ジャガー横田(62)の夫で「ジャガークリニック」院長の木下博勝医師(56)は「このまま感染が拡大すると、死者が出るおそれがある」と警鐘を鳴らす。 「麻疹は飛沫や接触感染だけでなく、空気感染もする。同じ空間にいるだけで感染する可能性があります。麻疹ウイルスは空気の流れに乗って広範囲に拡散します。麻疹ウイルスの抗体を持っていない人はその空気を吸い込んだだけで、容易に感染します。インフルエンザウイルスやコロナウイルスはマスクである程度、感染を予防できますが、麻疹ウイルスは非常に小さく、マスクをすり抜けてしまう。感染拡大が懸念されます。 麻疹ウイルスの感染力は強力です。まわりが抗体を持たない人たちばかりだった場合、患者1人で12人~18人に感染させるといわれています。同じ状況で患者1人で2~3人に感染させるとされるインフルエンザウイルスの6倍の感染力です。しかも、コロナウイルスだと感染しても発症しないケースが多々ありますが、麻疹ウイルスに感染すると90%以上の人が発症します。特効薬はなく、それぞれの症状を抑える対症療法しかありません。麻疹ウイルス感染後は10~12日間の潜伏期間を経て発症し、発熱や咳など風邪のような症状が2~3日続いた後、全身に発疹が出ます。発熱の仕方が特徴的で2日ほどで一度下がりますが、再び40度近くまで上がり、高熱が1週間ほど続きます」 高熱だけでも相当に辛いが、麻疹の恐ろしさは合併症にある。 「肺炎や中耳炎を合併しやすく、重症化すると脳炎を引き起こし、1000人に1人の確率で死亡します。また、非常に稀ではありますが、感染後、麻疹ウイルスが脳内に潜伏し、ゆっくりと脳炎が進行し、数年~10年後に亜急性硬化性全脳炎を発症することがあります。発症すれば、植物状態を経て死に至る麻疹の最悪の合併症です」(木下氏) また、妊娠中に麻疹に感染すると流産・早産・死産が3~4割の確率で起きることは広く知られており、妊婦健診では、妊娠初期に風疹・麻疹の抗体について血液検査が行われる。妊娠中は風疹・麻疹のワクチン接種を行うことはできないため、ワクチンの接種歴を確認しておくことが重要だ。 麻疹の流行の兆しがある今、感染予防にはワクチンが有効である。多くの人は幼少期に接種しているはずだが、ワクチンが有効かどうかは接種歴だけでなく、抗体価が重要となる。木下氏が解説する。 「51歳より上の世代は麻疹ワクチンを打っていません。感染によって抗体を持っている人が多いと思います。ただ、実際に抗体があるかどうかは、血液検査をしてみないと分かりません。僕も血液検査をしてみたのですが、麻疹の抗体は14.2(EIA法)で基準値の16(EIA法)を下回っていました。現在は麻疹ワクチンは2回接種ですので、抗体を持っている人が殆どかと思います。1回接種だった世代(1977年~1990年生まれ)は接種から30年くらい経つと抗体が弱くなります。2回接種している若い世代でも抗体価が落ちている場合があります。血液検査で抗体価を調べることをお勧めします。ただし、保険適応にならないので自費の検査になります」 都内在住のYさん(22)が留学に備えて抗体価を調べたところ、抗体価は基準以下の6.5だった。2歳と9歳の2回、予防接種を受けており、念のために受けた抗体検査だったが、意外な結果を受け、3回目のワクチン接種を決めたという。 「現在、麻疹単体のワクチンはなくて、風疹と麻疹の混合ワクチンを接種しました。1万3000円しました。思ったより高くてびっくりしましたが、ワクチンの在庫があるクリニック自体が全然なくて、5軒まわってようやく見つけました」(Ýさん) 木下氏によると、ジャガークリニックにも麻疹ワクチンに関する問い合わせが殺到しているという。 「ワクチン接種の前に抗体検査をすることをお勧めしています。抗体がある人は打つ必要がないですし、打たないでほしいのです。というのも本来、麻疹ワクチンは小児が接種するために生産されているからです。すでにメーカーの出荷調整によるワクチン不足が始まっており、大人が接種すると、本来打つべき小児に行き渡らなくなる。しかも、大人のワクチン接種は保険がきかず、自費になりますので値段は1万円以上と高価です」 厚労省は3月26日、国内の麻疹感染者の数が昨年の7割にあたる20人に達したと発表した。うち14人がアラブ首長国連邦からの帰国便で感染が確認された男性とかかわっている可能性があるという。 BUMP OF CHICKENがライブを行った大阪城ホールの収容客数は1万6000人。公式Xを見た限りでは、感染していた客が公共交通機関を使用したか否かなど詳しい情報はない。もしその客が新幹線や飛行機、電車、バスなどを使用していたら……麻疹パンデミックはいつ起こっても不思議ではない。その前に打てる手は打っておきたい。 取材・文:吉澤恵理 薬剤師/医療ジャーナリスト
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