ラグビー「20分レッドカード」をめぐる攻防
【ベテラン記者コラム】ラグビーの国際統括団体「ワールドラグビー」（WR）がこのほど、11月のテストマッチシリーズ、オータムネーションズシリーズで「20分レッドカード」を試験導入することを明らかにした。 「20分レッドカード」とは、選手がレッドカードで退場になったとしても、20分後に別の選手を交代で投入することが認められるというルール。南半球のスーパーラグビーでは2020年から採用し、今年の南半球4カ国対抗でも実施された。ただ、「故意で真に危険な反則の場合」は残り時間の全てを少ない人数で戦わなければならない。 WRがこのルールの導入に積極的になったきっかけの一つが、2022年3月の欧州6カ国対抗、イングランド－アイルランド。地元トゥイッケナムの大観衆の前で、イングランドLOチャーリー・ユールズが、アイルランドLOジェームズ・ライアンの頭部にタックル。ビデオ判定のTMOにかけられ、開始わずか82秒でレッドカードを受けてしまった。79分間を14人で戦うことになったイングランドは15－32で敗れた。 導入理由は、試合のエンターテインメント性の維持。早い時間で人数が減ってしまうのは、勝敗の興趣をそいでしまうというものだ。 これに真っ向から異を唱えるのがフランス協会だった。協会、プロリーグ運営団体、選手組合が連盟で「レッドカードはスポーツの精神に反する行為を抑止する非常に重要なツールで、選手の身体的安全を守るものだ。選手の安全こそが最優先事項であるべきなのに、このルールはそれを脅かすような行為を助長する恐れがある」と声明を発表した。アイルランド協会も「20分レッドカードの永久的な採用は支持しない」と反対の姿勢を示した。 逆に賛同しているのがニュージーランド、オーストラリアの南半球勢。スーパーラグビーで経験していることに加え、両国の15人制ラグビーの人気が下降線気味（オーストラリアは昔からユニオンラグビーの人気は低かった）という切実な理由もあるようだ。その反対に、国内リーグが好調なフランスは潤沢な資金を持っている。 ちなみに来年の女子W杯や男子の27年W杯に関して、WRは「採用するかどうかは決めていない」としている。WRは11月14日に理事会を開き、このルールも議題に上る予定で、フランス協会はその席上でも反対意見を述べるという。ラグビー界は昔から、北半球と南半球の攻防があったが、今回はどうなるのか興味深い。（田中浩）
