ある日、突然つまづいて顔中が「血だらけ」に…定年後の生活を襲った「転倒」という圧倒的恐怖
---------- 元伊藤忠商事会長、そして民間人初の中国大使を務めた丹羽宇一郎さん。仕事に生涯を捧げてきた名経営者も85歳を迎え、人生の佳境に差し掛かった。『老いた今だから』では、歳を重ねた今だからこそ見えてきた日々の楽しみ方が書かれている。 ※本記事は丹羽宇一郎『老いた今だから』から抜粋・編集したものです ---------- 【画像】突然、足が動かなくなる恐怖
習慣になっていた散歩
私は社長になっても会長になっても、電車で通勤していました。足腰を鍛えるためではありません。部下たちは満員電車に乗って苦労して会社に来ているのに、自分だけ黒塗りの車で会社に来るのはよくないと思ったからです。 会合などに出席するときも、タクシーをほとんど使わず、電車と徒歩で移動していました。部下と同じように苦労して生活するほうが、経営者としてものを考えるうえでいい。いや、そういうふうに生活しないといかん、という気持ちでやっていました。 その頃の私は、ワイフから「あなたは速く歩きすぎよ。とてもじゃないけど一緒に歩きたくない」と言われるほど速歩でした。 七〇代半ばで自分のオフィスを持ってからも、胸を張り、風を切るようにして歩いていました。私よりひとまわり以上年下の男性が、「丹羽さんについていくのは大変ですよ」と、ぼやいていたくらいです。ところが今は、風を切るどころではない。速くなんか、とても歩けません。 歳をとってから一度歩けなくなると、身体が少しずつ回復してきても、以前のように歩くのは大変なのです。 病気になってからは、自分の体調や天候と相談しながら、家の近くを散歩しています。散歩時間は一五~二〇分で、元気な頃の半分です。それ以上は、遅く歩いても速く歩いても、身体のいろいろなところに影響するからです。 体力をこれ以上衰えさせないための散歩なので、速く歩く必要はないのですが、「前よりちょっと速く歩けるようになったかな」と思うと、やはり気分がいいものです。