錦織一清「若い頃の自分は大嫌い…」見てくれよりカッコいい生きざまを選んでいきたい
◇まさかバンダナを巻いて歌って踊るとはね(笑) 少年隊といえば、1986年から23年もの長きにわたって続いたミュージカル『PLAYZONE』シリーズも記憶に残る。錦織が演出家として初めて手掛けたのも、1995年の『PLAYZONE』だった。 「『PLAYZONE』は毎年、夏に公演があるんだけど、打ち合わせは年明けてすぐの1月なんです。だから、1年やって、またすぐ次の公演が来るって感覚でした。初日を迎えた途端、“来年は何やる?”って事務所の人に聞かれるのがイヤでね(笑)。裏方的なことについて僕はうるさかったと思います。演出家の方ともよく話してましたし、“ここやってよ”って頼まれることもあったし。アイデアの持ち寄りみたいな感じでした」 “実際に自分が演じてみせる”という錦織の今の演出スタイルは、この『PLAYZONE』での経験が原点だった。 「当時、事務所の人を納得させるのに、実際に演じてみないと理屈ではわかってもらえないんです。それで“このセリフはおかしいから、こんなふうに変えるよ”とやって見せていたんです。そのほうがわかりやすいから」 当時は、ここまで舞台演出に深く関わるとは思っていなかったそう。なぜなら……夢は「映画俳優だった」と告白してくれた。 「フィルムが好きなんです。映画も何本かやりましたけど、なかなか扉は開きませんでした。だから、夢破れた感はあるかもしれない。でも、そういう人って多いと思いますよ。 昔、ゲーム雑誌で対談の連載を持っていて、そこで『メタルギアソリッド』を手掛けたゲームクリエイターの小島秀夫さんとお話をする機会があったんです。彼も当初は映画の脚本家になりたかったそうですが、ゲームを作り、映画化のオファーがハリウッドから来るようになった。人生、そういうものかと思いました」 研修生時代には、子役として教育映画の『さようなら ぼくの犬ロッキー』という作品にも出演経験がある。 「始まりが役者だったから、自分がバンダナを巻いて歌って踊るとは思ってなかったんです。叔父が、日活所属の俳優だったこともあったし、俳優に憧れもあった。映画『蒲田行進曲』を見て、さらにその気持ちが強くなりました。どちらかというと好みが泥くさいんです。 いまだに一番好きな映画は『ディア・ハンター』。だから、白馬にまたがった王子様を世の女性が理想にしているとは思えなくて……。ひび割れた手で、海で馬を洗っているおじさんのほうが男らしく見えるんです」 少年隊として映画出演の経験もあるが、「もっとストーリーを深いものにすればいいのに」とも思っていたという。 「映画といっても、曲のプロモーションの一環だったと思います。まあ、当時は生意気だったんでしょうね。大人に反発したかったのかな? 素直じゃなかったんです。だから、僕は若い頃の自分が大嫌いなんです。 今のほうが、年齢を洋服に例えると、40歳を過ぎたあたりから自分の着心地が良くなってきました。洗濯を何回もしたシャツのように体に馴染んできた。それは歌もそうです。Funky Diamond 18のレコーディングをしながら、やっぱり年齢を重ねないと“歌は歌にならないな”と感じます」 あれだけトップチャートを飾ったヒット曲を持ちながらも、本人がそう感じているとは……。ここまで錦織の話を聞いて、若かりし彼がキラキラしている舞台に立ち、歓声を浴びていた当時、テレビから見ていた姿の影には、トップスターだからこその土壇場の崖ギリギリを歩んできたことがわかった。 「当時の評価は、歌そのものの評価かどうか……わからないなって。グリコのおまけようなものというか……。それを一番わかっていたのが、当時の事務所なんです。だから、素直な気持ちで一生懸命おまけを作ろうとするんですが、僕自身はおいしいキャラメルを作りたい。だから、意見がぶつかるんです」 その考えは今の舞台制作、演出においても変わらない。「やっぱり、おまけよりおいしいキャラメルを作りたい」と話す。 「“何をアーティストみたいなことを言ってるんだ”と言われることもあります。でも、僕は自分の作る舞台では、キャスティングありきの作品にはしたくない。ドリーマーなので(笑)。『がんばれ! ベアーズ』とか『アパッチ野球軍』みたいに、“このメンバーで頑張ろう!”っていうほうが楽しいんだよね。挑戦者でありたいんです」 ◇好きなことができることへの感謝を大事にしたい 2022年に独立し、自身の事務所アンクル・シナモンを設立した際には「少年を卒業しておじさんになります」と宣言。 「グループだと主張を抑えなきゃいけないから。もちろん、それはそれでうまくやっていたけれど、今はやることを自分で選べますから。やりたくないことはやらなくていいんだから、こんないいことないです(笑)。 もちろん、どこに行ったって、やりたいようにはできないですけど、好きなことができることへの感謝があれば、人を思いやれるし、許せるようにもなる。カッコつけさせてもらうなら、バンダナを巻くような見てくれよりも、カッコいい生きざまを選びたいんだよね」 やりたいことができる状況にいる今、「愚痴を言うまいと思っている」とも話す。 「自分で選んだことだったら、結果がどうあれ仕方ない。だから、自分が気に入って好きになった人間だったら、たとえ金をだまし取られても文句を言わない。……なんて、こんなこと言ってる俺にこそ、だまされちゃいけないですよ(笑)。“カッコいい洋服なんか着なくたっていい。中身がよきゃあ”なんて言ってるヤツこそ、一番カッコつけしいですから」 10月16日(水)には、Funky Diamond 18の2ndアルバム『PLATONIX』をリリース。さらに11月からは全国6都市でのツアーも開催する。自分で選んだ道を進み、ますます活動的だ。 「地方公演のスケジュールが前乗りになったら、2曲目くらいまでは二日酔いで具合いが悪くて、3曲目からノッてくるライブになるんじゃない? なんて感じでインタビューを締めるとおもしろくない?(笑) だって、ファンキーなんて称してるのに、マジメな話ばっかりじゃヘンじゃないですか!」 土壇場をテーマにしても、最終的には周囲を笑いの渦に巻き込んでしまう、このバイタリティこそが錦織一清らしさ。 「本音で行きたいですよね。もう舞台の上で“疲れました”と言っても許してもらえる年齢ですもん。僕らもお客さんも。今の年齢だから、そういうことも言えるようになった。だから、今回のツアーはお客さんと一緒に疲れたいですね。そういうの、すごくハッピーだと思う。公演が終わったら、“今日はよく眠れますよ~!”ってね(笑)」 (取材:本嶋 るりこ)
NewsCrunch編集部