映画『かくしごと』は、何を秘めているのか?──杏主演で6月7日劇場公開
映画『かくしごと』が6月7日に劇場公開される。俳優の杏が、記憶を失った少年に自分が母親だと嘘をついてしまう主人公を演じるヒューマン・ミステリーについて、ライターのSYOがレビューする。 【写真を見る】奥田瑛二、安藤政信、佐津川愛美の好演が光る!(全15枚)
杏が演じる嘘をついた女性の物語
菅田将暉と趣里が共演した強烈な一作『生きてるだけで、愛。』からファッションデザイナー・中里唯馬を追うドキュメンタリー映画『燃えるドレスを紡いで』まで、ボーダレスに活躍する映像作家・関根光才。彼が杏を主演に迎え、ある少年を守るために“嘘”をつく女性を描いたヒューマン・ミステリー映画『かくしごと』が、6月7日に劇場公開を迎える。 長年絶縁状態にあった父・孝蔵(奥田瑛二)が認知症を発症し、故郷に戻ってきた絵本作家・千紗子(杏)。ある日、事故で記憶を失った少年(中須翔真)を保護した彼女は、彼の身体に痛々しいあざを発見。実親に虐待されていたと考え、「あなたは私の子どもなの」と嘘をつく──。 このあらすじから察せる通り、本作は「あなたならどうする?」と、問いを突き付ける。北國浩二の小説「噓」の映画化に際し、関根監督は「千紗子の行動は社会的には許されないですが、過酷な状況にある人を助けたいという気持ちは誰しもが持っているのではないでしょうか」とコメントを寄せている。 記憶喪失に乗じて身分を偽り、未成年と暮らすことは法律に照らし合わせれば犯罪であろう。ただ一方で、理不尽に傷つけられ、場合によっては死に至らしめられていたかもしれない命を救うことは、人道的には善なる行為といえる。 とはいえ、事はそう単純ではない。児童相談所に相談したり、警察に通報したり、知見のある専門家に打ち明けたり、インターネットやSNSの力を利用したりと、一個人に出来る対応策は無限ではないが、幾つかあるようにも思える。実際、千紗子の嘘を唯一知る友人の久江(佐津川愛美)がブレーキになろうと努める場面も挿入される。 しかし、千紗子は止まらない。やがて観客は、彼女の過去と結びついた“事情”があることを知ることになる。そして、「善意100%」と言えないことも──。その行動は「ただ少年を救いたいがため」という聖人君子的なものではなかった。 それを踏まえて、観客それぞれが千紗子の行動をどう捉えるか。「救命が最優先」という見方もできれば、「独善的/利己的」と思う人もいるだろう。そういった意味で、『かくしごと』はエンドロールが流れるまで観客を揺さぶってくる。本作が「ミステリー」に分類されるのも納得だ。