老後が不安、介護保険に入るべき? 他人事でないならむしろNISA
『この保険、解約してもいいですか?』(日経BP)を刊行。有料の保険相談を長年、続けてきた後田亨氏が「民間の介護保険」の要否を考察する。 【関連画像】後田亨氏の著書『この保険、解約してもいいですか?』 長生きがリスクになる時代である。介護に将来かかるお金を懸念する声をよく聞く。過日、セミナーに登壇した際にも、このような質問を受けた。 「70代前半と60代後半の夫婦です。これから介護の問題が心配です。親も80代になって要介護認定を受けましたし、他人事(ひとごと)とは思えません。民間の介護保険に入っておくほうがいいのでしょうか?」 保険会社の営業担当者から「国の介護保険では、訪問介護などのサービスを受けられるが、現金支給はない。介護にかかるお金のことを考えると、民間の保険で備えておくのが安心だ」と言われ、具体的なプランを提示されているらしい。 ●確かに、介護は「他人事とは思えない」 筆者は「確かに、介護は他人事と思えないかもしれません。私の親も80代後半で要介護者になり、その後、3~4年の間に急に弱って亡くなりました。ただ、他人事ではないからこそ、民間の保険はお勧めしません」と返答した。 専門知識がない人でも、常識で考えるとわかるだろう。 保険はもともと、めったに起きない事態への備えに向いている。他人事とは思えないほど、頻繁に発生する事態に保険で備えようとしたら、保険料は高額になるに決まっている。 論より証拠。オリコン顧客満足度調査「【2024年】FPが選んだ オリコン介護保険ランキング」で、総合1位を獲得した朝日生命の「あんしん介護」で、試算してみた。 結論からいえば、この保険に65歳の女性が加入するのは「90万円を払って20万円の受給権を買うようなもの」だ。なぜか。
「あんしん介護」の「介護一時金タイプ」の場合、「要介護1」以上に認定されると、保険料の払い込みが不要となり、「要介護3」以上に認定されると、介護一時金を受け取ることができる。例えば、介護一時金額100万円のプランに65歳になったばかりの女性が加入する場合、保険料は月々2984円だ(*)。保険料の払い込みは終身で、基本的には一生涯続く。 この女性が100万円を受け取る確率はどれくらいあるのだろうか。 * 朝日生命のサイトにある「かんたん保険料見積もり」で算出 https://anshinkaigo.asahi-life.co.jp/ ●早く「要介護1」にならないと損する? 「あんしん介護」の商品サイトには、「介護は誰にとっても身近なリスクです。要支援・要介護認定者数は年々増加しており、2025年には65歳以上の約5人に1人に上る見通しです」とある。 5人に1人というのは、厚生労働省「第74回社会保障審議会介護保険部会資料」より、同社が推計した数字ということだが、確率20%だ。それなら、100万円の一時金の見込み給付額は20万円と考えてもいいだろう。 これに対し、保険料は68回払い込んだ時点で20万2912円となる。つまり、70歳と8カ月で、見込み給付額を上回る保険料を支払うことになる。 もちろん、その前に「要介護1」になって保険料の支払いが免除されれば、話は違う。この場合、支払う保険料は見込み給付額を下回る。さらに、死亡するまでの間に「要介護3」になれば、100万円の一時金が受け取れるので、収支はプラスになる。ただし、貨幣価値の変化を考慮しない単純計算での話だ。それに、介護保険に入ったからといって「『要介護3』になるまで生き続けたい!」と考える人もいないだろう。 ●90万円を払って20万円の受給権を買うようなもの 65歳女性の平均余命は約25年(*)だ。先ほどの女性が90歳まで生きて、保険料の払い込みが300回に達したとすると、総額89万5200円。20万円の受給権を90万円弱で買うといった計算だ。インフレリスクなどを加味すると、受給権の価値は20万円未満と評価していいかもしれない。従って「90万円を払って20万円の受給権を買うようなもの」というわけだ。 男性の場合はどうか。70歳男性が同じプランに加入する場合、保険料は月々3588円で、56回払うと20万928円に達する。75歳になる前に、見込み給付額を超える保険料負担になるわけだ。 こちらも平均余命まで生きるケースで試算しよう。平均余命は約16年で(*)、86歳までの保険料総額は68万8896円。だから、20万円未満の受給権を約70万円で買うと評価できそうだ。 * 厚生労働省「第23回生命表(完全生命表)」 https://www.jili.or.jp/lifeplan/lifesecurity/1118.html