「カンブリア宮殿」知られざる番組の舞台裏
――ゲストで迎える企業・団体の経営者やトップの人選はどのように? 「世の中に広く受け入れられている商品やサービス、あるいは施設がどうして生まれたのか、なぜ人気があるのか、どこの企業・団体が作ったのか、どんな人が経営していて、そこではどのような経営方針・理念のもと仕事をしているのか…という素朴な疑問からリサーチに取りかかる場合が多いです。 番組スタッフが探してくる場合と制作会社の企画を採用する場合がありますが、どちらも選ぶ基準は、1時間かけてじっくりと伝えられる内容であるかどうか。企業・団体の大小にはこだわらず、深く掘り下げられるだけの歴史、ストーリーがあるか。さまざまな角度で取材できる切り口を持っているかどうかに重きを置いています」 ――2007年に発売された書籍「カンブリア宮殿 村上龍×経済人 スゴい社長の金言」の“まえがき”で、村上さんは「現代の優れた経営者は、常に危機感を持ち、謙虚で、現場に足を運ぶこととコミュニケーションを何より大切にしていて、ほかに何より明るい」と。 鈴木プロデューサーは、“未来の進化を担う経済人”に共通する資質は、どこにあると思いますか? 「およそ900人のゲストをお招きして思うのは、チャレンジする姿勢です。そこそこの努力である程度の成果が出る選択肢と、誰も手を付けていない…いわゆるブルーオーシャンと言われるところに挑む選択肢がある場合、後者を選択するゲストがほとんど。多くの人間が尻込みし、反対するところに、果敢にチャレンジして大きな成果を上げています。 そして、社員やそこで働く人を大切にしている。だからこそ、周囲を巻き込んでチャレンジすることができ、成果を出せるのだと思います。 もう一つは、村上龍さんもおっしゃっているように、謙虚で明るく、なおかつ、すでに成功していても現状に満足しないこと。例え大きな成果を出したとしても、トップの皆さんは、常に“発展途上だ”と思っているのではないでしょうか」 ――村上さんは、「利益を優先していない」とも。 「そうおっしゃる経営者・トップがほとんどですが、みなさん成果を出しておられます」 ――続けて「けれども、もうかっている。それが不思議」だと。 「きちんと利益を出す形を作り、継続している…そこは、『カンブリア宮殿』で紹介する企業・団体の一つのポイントではありますが、番組では、“なぜ利益を出しているか”という疑問には、あえて結論を出しません。視聴者の皆さんに一緒に考えていただくということが番組の基本方針だからです。 壁の乗り越え方、困難を突破するやり方は人それぞれですので、我々はそのヒントを提示する。番組では『金言』と呼んでいる経営者・トップの言葉から何か感じていただければいいかなと思っています」 ――900回記念スペシャルのテーマは「ニッポンの小売りの未来…大逆襲が始まった!」。 第1弾では、三越伊勢丹ホールディングス・細谷敏幸社長を招き、コロナ禍での小売りの厳しい環境から都心の旗艦店を中心に業績を急回復させた手腕を紹介します。 「コロナ禍以前からずっと苦境にあえいできた百貨店という業態で、気が付けばバブル期を超える好業績をたたき出した三越伊勢丹。これってどういうこと? という疑問からリサーチをして、取材を進めました。そうすると、インバウンドの影響だけではないことが分かり、そこには違った取り組みがあることが見えてきた。 細谷社長いわく『百貨店を科学する』――。その意味は、顧客データを徹底的に分析し、“マスを相手にしながら個をつかむ”ということ。ビジネスの裏側を含めて、“過去のビジネスモデル"と言われた百貨店をどう再構築したのか――。900回にふさわしい内容になったと自負しておりますので、どうぞご期待ください」 (取材・文/橋本達典)
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