【大学トレンド】留学しなくても…学生の国際意識を刺激する「濃いコミュニケーション」
「人間性が豊かになった」
シンインさんと同じく、たくさんの人と出会えた喜びを語るのは、医療技術学部4年の猪熊友海(ゆかい)さんです。大学に入学し、柔道一筋の大学生活を送っていました。転機が訪れたのは3年の後期。ある授業で教授が言った「日本人は視野が狭い。もっと世界を見て、いろんな人と関わって、日本にある常識を疑わなきゃいけない」という言葉にハッとしたといいます。 「当時は柔道を続けることにも限界を感じていて、このままじゃまずいなと思っていました。そんなときに価値観を揺さぶられる言葉を聞き、背中を押されました。調べてみたら学内にオウチコモンズというものがあることを知り、さっそく相談に行きました」 「留学生と友達になりたい」と話す猪熊さんに、オウチコンシェルジュは英会話のイベントや、留学生と暮らす国際学生寮を紹介してくれました。柔道部をやめた猪熊さんは、紹介された国際学生寮に移りました。 「僕はそれまで日本人どころか、柔道やスポーツをやっている人としか関わってきませんでした。それがこの1年で15カ国以上の友達ができたのです。それまで海外にも行ったことがなかったのですが、昨年夏にはベトナム人の友達の帰省に同行したし、春になったらカナダ人の友達のところにも同行する予定です。いろいろな人と関わって、自分の人間性が豊かになったと感じています」 当初は英語にも自信がなく、「友達になってください」というフレーズも事前に調べたと笑う猪熊さん。英語力の向上を目指していたそうですが、リアルな国際交流の場に飛び込んだことで、新たな目標を見つけました。 「たくさんの人とコミュニケーションすることで、自分の常識が変わったり、考えが広がったりすることがとても楽しいです。卒業後は、サステナブルな漁業を実現する漁師になると決めています。他国ではどうやって海洋資源を回復させているのか、そのためにどんな制限をかけているのかなど、海外から学べることはたくさんあるはず。単なる語学力ではなく、発想や具体的な事例を積極的に取り入れるためのコミュニケーション力を、もっともっと高めていきたいです」 猪熊さんのこの言葉は、オウチコモンズを開設した狙いが実現できていることを表しています。学内には語学学習施設「Telaco(テラコ)」もあり、学生に活用されていますが、オウチコモンズが目指したのは「語学のみでなく世界を味わう場」にすることでした。留学生も日本人学生も、共に自然体で過ごすからこそ生まれる交流もあり、猪熊さんには合っていました。 国際交流センターの田口仁課長は、オウチコモンズを「学内の人間関係における中心地にもしていきたい」と言います。 「たくさんの学生がここでくつろぎ、友達とおしゃべりしているのを見ると、本当にうれしいです。昼休みなどは日本人の学生も集まってきて、ほぼ満席になっています。『第三の家』として、日常のグローバル化はある程度、実現できていると思います。今後は日本人学生向けの留学説明会や、新たな交流機会の創出などに取り組み、さらに情報を発信していきたいです」 こうした取り組みに注力する大学は全国でも増えています。例えば、武蔵野大学では2つのキャンパスに同様の交流スペースを設け、関西大学や東京都立大学をはじめとして留学生のサポーター制度があるところが多くあります。また東北大学では、外国人留学生と日本人学生が協力して開催する国際交流イベント「東北大学国際祭り」を年1回開催しており、例年3000人以上が参加するなど大盛況です。 日本の大学のキャンパスにいながら、外国人とフラットな友達になれる環境ができつつあります。「大学での国際交流」のあり方も変わっています。
朝日新聞THINKキャンパス