球速をあえて求めない今永の意図は
進化を目指す過程で試練の時を迎えているのかもしれない。カブスの今永昇太投手(30)は6月21日のメッツ戦でメジャー移籍後最短となる3イニング0/3で74球を投げ、ワーストの3本塁打を含む11安打、10失点と大炎上した。
この日のフォーシームの平均球速は90・1マイル(145キロ)でシーズン平均の91・8マイル(147・7キロ)より2キロ以上、下回った。米国では球速が低下した場合、肩や肘の故障を疑う声が大きくなる。そのため試合後の会見では、球速低下についての質問が多かった。
だが、球速は出なかったわけではなく、出さなかった。
「出力を抑える、というのが正確な表現。その方が僕の真っすぐの質が生きる。アメリカ人の投手を目指すのではなく、異ならなければいけない。90マイルよりも、93、94マイルの方がいいと思うんですけど、それで(投球フォームなどの)メカニズムを崩して体力を消耗すると長続きしない」
メジャーにきたから、パワー投手になろうとするのではなく、自分の長所を生かす。端的に言えば、今永の直球(フォーシーム)はメジャー平均より回転数が多く、打者には伸びるように感じる。良質な球種を最大限に生かすためにむやみに力む、力いっぱいに投げる、ということは不必要。速ければいい、ということではない、という趣旨だ。
「ストレートの球速を上げたところで僕の場合は、僕は93マイルとかなので、それで得られるものよりも失うものの方が多すぎる。もちろん(自分の出力を)ボトムアップ(底上げ)して、155キロ(96マイル)とか投げられたらいいんですけど、僕はそうではない。(出力を)抑え気味に投げてでも一定のクオリティの真っすぐを投げる、というのがベスト」
継続的に安定したパフォーマンスを発揮することが、チームへの貢献。だからこそ、あえて球速を出さない、という投球術を選ぶ登板もある。カブスはナ・リーグ中地区で下位に低迷中。前半戦をストロングフィニッシュさせ、後半戦からの巻き返しを期すためには、今永の好投が不可欠だ。
(文・山田結軌=サンケイスポーツMLB担当)
山田 結軌