「太ると病気になる」という不安が招く深刻な弊害、幸福感を犠牲にした食生活では健康になれない
それを 「太るといけない」などと考えて、食事量を減らそうとするのは本末転倒。特に高齢の方にはもうちょっとしっかり食べていただきたいのです。 ■「幸福感」を犠牲にする食生活は健康を損なう 「主観的健康寿命」 という言葉をご存じでしょうか? これは「疾患の有無にかかわらず、自分が健康であると自覚している期間」を指します。 たとえば、高血圧や糖尿の傾向はあっても、特に制限なく、快適に日常生活を送っていると自分自身が思えるなら「健康」である、という指標です。
こうした主観的健康感が悪くなると、要介護の発生率も増えるという調査結果があります。心の持ちようが明るくなればからだも元気になり、疾病の疑いや「太りすぎると病気になる」といった不安に駆られると、健康も次第に損なわれていくといえます。 国は医療費削減のためにあれこれ健康政策に力を入れており、血圧の数値をはじめとした健康診断の基準がどんどん厳しくなってきています。 その結果、本人の健康状態は何も変わらないのに、診断基準が変わったがために、“高血圧予備軍”のレッテルを貼られる人が急増しました。
健康であるにもかかわらず、血圧やBMIを気にして、無理な食事制限やダイエットをする人も増えたと感じています。 ■けっして長続きしない「2つのガマン」 ダイエットには 「食べないガマン」と「食べるガマン」 があります。 太ってはいけない、もっとやせなくてはというのが「食べないガマン」、健康のためだと、たいしておいしくもない健康食品を食べることが「食べるガマン」です。 どちらも「ガマン」である限り、ストレスはたまります。いくら健康によい食品であっても、無理やり食べるのであれば、長続きしません。私はとりたてて重大な持病がないのであれば、無理に食事を制限する必要はないと考えます。
食べたいものを、自信を持って食べていただきたいのです。おいしいものを楽しく食べるのは、誰にとっても幸せを感じるもの。そうした幸福感を犠牲にした食生活は、結果的には健康を害することにつながるのです。 炭水化物は、からだに悪いものではなく、人間が健康であるために必須のもの。もちろん、とんでもない量をバカ食いしたりすれば、健康を害することになりますので、適量を知る必要がありますが、毎日、おいしく味わっていただきたいと願っています。
笠岡 誠一 :文教大学健康栄養学部教授