PTAの予算で「英語講師料」「プール清掃費」を負担…それって妥当ですか?
西日本新聞「あなたの特命取材班」に、福岡市立小学校に子どもが通う保護者から、PTA予算の使い方に関する投稿が寄せられました。英語講師料やプール清掃費などに費用が計上されているといい、「本来、学校側が負担すべきものでは」と疑問を呈しています。学校や教育委員会、教育行政学の専門家らに取材しました。 【画像】ある福岡市立小学校のPTAが配布したチラシ
【投稿】
PTA予算の使い方がおかしいと思います。2022年度の予算書を見ると、「職員活動費」や「英語講師料」などとして95万円、「プール清掃」で30万円などが計上されています。これって本来は、学校側が負担するべき予算なのではないでしょうか。 「保健室の簡易ベッド」や「ランドセルの棚」まであります。会費も1人当たり月500円と高すぎます。近隣の保護者に聞くと1人当たり月300円です。名札やゼッケンを毎年購入するのも疑問です。一部を書き直すなどすれば翌年も使えますし、必要な人がそれぞれ購入すればいいのではないでしょうか。「必要ない」「返金を」と毎年伝えてますが、意見は通りません。 さらに、PTA会員を抜ける手続きもおかしいと思います。まず、職員室前の棚にある「非加入届」を入手して記入、事務室前のポストに投函しなければなりません。締め切りは今年3月15日。その後に、学校、PTA役員との面談をしてから、非加入手続きが完了となっています。脱退させないための圧力ではないでしょうか。
【あなたの特命取材班より】
記者が学校に電話すると、教頭は「担当は校長だが不在」という返答でした。その後、数日間に複数回の電話をしましたが、「保護者対応中」「学校にいない」などと校長にはつながりません。言付けで頼んだ折り返し電話ももらえなかったため、5月10日にファクスで計6項目の質問をまとめた紙を送りました。同21日にファクスで返答がありました。 「運動会等で回答が遅くなりました」という冒頭文の後に、質問に対する返事が記されていました。 まず、英語講師料について。 <本校においては、外国語活動の授業に関するゲストティーチャーについて、従来から教育委員会の事業による派遣の外に、PTAから講師派遣をいただいています。PTAにおいて、本校児童に対する外国語活動の授業をより充実させたいとの思いからご支援いただいているものと理解しています> 次にプール清掃について。 <従来、プール清掃については、教職員と6年生児童で行っていましたが、コロナ禍明けは、汚れがひどく教職員や児童だけでは対応が難しかった。そこで、令和4(2022)年度については、PTAの活動の一環として、清掃していただいたものと認識しています> ◆ ◆ こうした使途は妥当なのでしょうか。「隠れ教育費」の著書がある福嶋尚子・千葉工業大准教授(教育行政学)に取材すると、地方財政法の施行令違反の疑いの指摘がありました。 第52条に市町村が住民に負担を転嫁してはならない経費が定められていて、公立小中の建物の維持および修繕が該当します。福岡市立小のプール清掃は維持費に当たる可能性があるといいます。 PTAによる保健室の簡易ベッドやランドセルの棚の提供も、福嶋さんは「不適切」と捉えています。学校教育法第5条で学校の経費は設置者負担と定めているためです。 一方で、PTAによる経費負担や物品購入は「全国的にはよくあること」なのだそうです。福嶋さんは背景に、「美談と無知」があると言います。 学校の建物や設備が老朽化しても、迅速な修繕や物品購入が難しい場合に、予算に余裕があるPTAに依頼。要望がかなえられると、子どものために貢献できた保護者も、すぐに対応できた学校側も満足。教育委員会は予算を増やす必要がない―。 こうした関係性の中でPTA予算は重宝されてきた、と福嶋さんはみています。「善意でやっている上に法令を知らない人も多い。深刻なのは、疑問を呈する人が『悪者扱い』されてしまうケース」。支出のストップが関係者の満足度低下につながるため、異論は許されない雰囲気になってしまいます。 福嶋さんは「考え方を整理するために、立法の趣旨に立ち戻ってほしい」と呼びかけます。PTA会費の規模や使途で学校教育が左右されると、地方財政法や学校教育法の背景にある「教育の平等性」が損なわれるリスクがあります。 「学校教育で必要な経費はきちっと公費で賄うことが重要。全国的には教材を全額負担したり、共用の教材を増やしたりする自治体も出始めています。保護者のお金で教育環境を整えることの是非をいま一度、考えてみてはどうでしょうか」 ◆ ◆ 冒頭の校長からのファクスでは、非加入手続きの妥当性に関する返答もありました。 <面談については、非加入の意思を示した保護者に、今後のPTA活動の参考とするための意見を聞きたいと考えて実施しているものです。なお、面談をしなくても届け出があれば、非加入の扱いとなっていると聞いています> 福岡市教育委員会人権・同和教育課にも尋ねました。福岡市PTA協議会が2019年に作成したガイドラインで、①入会申込書②入会確認書③非加入届のサンプルが記されており、加入届ではなく非加入届を用いることは、ガイドラインに沿った対応だという見解でした。「PTAは任意であることをお伝えした上で、保護者の意思確認はそれぞれのPTAの状況で決めていただいている」と言います。 ◆ ◆ 福岡市教育委員会からは追加の回答がありました。 保健室の簡易ベッドやランドセルの棚などの購入にPTA予算が充てられていることについては「学校側が強要したわけではなく、あくまでPTA側の提案によるもの。教育活動の充実を図ろうという善意の寄付で、法律に違反するものでもありません」としています。 英語講師料については「PTAの協力に限らず、それぞれの学校で重点を置く教育活動は異なり、公平性を欠くものではない」と説明。市教委の予算では小学3年に年18時間、小学4年に年8時間のゲストティーチャーを確保。この小学校ではさらにPTAがゲストティーチャーを雇用する形で、来校日を増やしているといいます。(四宮淳平)
西日本新聞社