リル・ヨッティが明かす、変化し続けるラッパーの野心的ヴィジョン
「本物」として認知されたい
ーあなたはこのアルバムを作った理由のひとつとして、「クラウドラップやマンブルラップと決別し、本物のアーティストとして見られるようになること」だと話しています。クラウドラップやマンブルラップとカテゴライズされる人々が、他のジャンルのアーティストと同じように評価されるべきだという見方についてどう思いますか? ヨッティ:まさにそれだ。他人がどう考えてるかは分からないよ。俺はそういう人々の代弁者ってわけじゃない。俺は俺の労働倫理やクリエイティビティについて話すだけで、他人のことに口を挟む気はないよ。俺はアーティストとして認知されたい。自分はマンブルラッパーじゃないし、クラウドラッパーでもない。でも俺は別に、すべてのクラウドラッパーを代弁してるわけじゃない。これは全部俺自身のことなんだ。その点ははっきりさせておきたい。これは俺なりの労働倫理であって、他人とそれを共有してるわけじゃない。馴染みのないジャンルについて学んだり、何かをやり遂げるための方法について思案することに、誰もが多くの時間を割こうとするわけじゃないから。 ー多くの人があなたのコメントに敏感に反応し、歪んだ解釈をする向きもあるように思います。ヒップホップの世界には伝統主義者が多く、新しいことに挑戦しようとするアーティストは邪道だと批判されがちです。 ヨッティ:おかしいよね。型破りな才能の持ち主をこき下ろすのは、いつだって王道を支持する人たちなんだ。「お前は本物のラッパーじゃない。こんなのはニセモノだ」ってね。あらゆる人を満足させることなんて不可能なのにさ。 ーあなたは過去にラッパーとしてのスキルを証明しようと努めた時期もあったと語っています。今振り返ってみてどう思いますか? ヨッティ:良かったと思ってる。批判があったおかげで成長したし、強くなれたと思う。努力することでヒップホップの何たるかをより理解できたし、その美学について知ったから。その過程で俺は学び、自分の武器を研ぎ澄ましていったんだ。 ー押し付けられたイメージが自身のキャリアの足枷になっていると感じたことはありましたか? ヨッティ:特にないね。俺はずっと努力してきたし、ラップと世間からの評価に関して言えば、人一倍頑張ってると今でも思ってる。最近はどう思われようが気にしなくなったけどね。 ーアワードやラジオでのエアプレイ、それにフェスティバルといった観点において、あなたが言わんとしていることは、ラッパーに貼られるレッテルとどの程度関係しているのでしょうか? ヨッティ:まったく無関係だね。俺にとってはどうでもいいことだよ。俺は特定のジャンルに縛られまいとしているだけで、それはラッパーというキャリアに伴う報酬や労働とは何の関係もない。俺はいろんなタイプの音楽を作りたい、本当にそれだけなんだよ。それが世間に評価されるかどうかや、アワードにノミネートされるかどうかはまったく別の問題だ。 ー今後もそのクリエイティブプロセスとモチベーションに基づいて作品をリリースし続けることで、特定のオーディエンスに対して何かを証明しようという思いはありますか? ヨッティ:特にないね。今回のアルバムだって、何かを証明したくて作ったわけじゃない。本物のアーティストとして認知されたいという思いはあるけど、その目的に基づいてアルバムを作ったりはしない。ただ優れた作品にしたかっただけで、ラップのアルバムを作るよりもこういうアプローチの方がいいと思ったんだよ。 ー自身のレーベルであるConcrete Boyzの動向について教えてください。 ヨッティ:今俺が一番やりたいことだね。最近は毎日のようにスタジオに入って、誰かと一緒に何かしら作ってる。まだ知られていない、特別な才能を持ったアーティストたちさ。ホットで斬新な、世間をあっと言わせるような作品をリリースするつもりだ。夏頃に本格的に始動させるつもりだから、楽しみにしててよ。 ーゼイン・ロウ(Apple Music)とのインタビューで、ドキュメンタリーを制作していると話していたように思うのですが。 ヨッティ:もう仕上がってるんだけど、おそらく公開しないと思う。俺は基本的にインタビューが好きじゃなくて、自分の考えを口にするのが煩わしいんだ。全部洗いざらい話して、あとはステージの裏に引っ込んじゃうみたいなさ。「インスピレーションは? いつ誰と何について話し合った? この作品を作った動機と背景は?」。そういう質問に全部答えると何もかも伝わってしまって、もう特別なプロジェクトではなくなってしまうんだ。だから俺は意図的に、アルバムについて話すのを避けようとしている。作品を構成する要素や驚き、そこに隠されたクールな何かを明かしてしまいたくないんだよ。何もかもがシェアされてしまうっていうのは、今の音楽業界の問題だと思う。語れば語るほど、作品の神秘性が失われていくんだ。 ーそういうミステリアスな面を持つアーティストにこそ最も惹かれると? ヨッティ:昔は今のようにソーシャルメディアが一般的じゃなかったからね。インタビューを受けるアーティストも、何もかも語ったりはしなかった。カニエも『808s & Heartbreak』や『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』について多くを語ろうとはしなかった。基本的なこと以外は伏せておくことで、聞き手に想像力を働かせる余地を残していたんだ。「制作プロセスはどんなだったんだろう? どうやってこんなサウンドを作ったんだろう? セッションはどんな感じだったんだろう?」。それがアートの醍醐味なんだよ。 ーあなたはこれまでもずっと、自身や作品について語りすぎないことを意識していたのでしょうか? ヨッティ:いや、俺のインタビューはネット上に無数に転がってるよ。若かったからね、無知だったんだ。当時の俺は、口を開こうとしない同世代の人々の代弁者になろうとしていた。「誰も言わないなら俺が言う」みたいなね。でも、今は自分のことしか話さないことに決めているんだ。 --- SUMMER SONIC 2024 2024年8⽉17⽇(⼟)18⽇(⽇) 東京会場:ZOZOマリンスタジアム & 幕張メッセ ⼤阪会場:万博記念公園 ※リル・ヨッティは8月17日(土)東京会場、18日(日)大阪会場に出演
ANDRE GEE