AIの未来を担う男、アルトマンの「正体」ー彼に人類の未来を託して本当にいいのか?
「王様は裸だ」と叫ばれても
ただし、そこにはさらに深い人間関係がある。 トナーが、オープンAIの理念の中核である安全性で彼らを凌駕していると指摘したアンソロピックのCEOは、オープンAIの創業直後からアルトマンと共に働いていた。 彼、ダリオ・アモデイがオープンAIを辞めた理由は、安全に関する方向性をめぐる意見の相違と、商業的になりすぎることへの失望だった。 アモデイはアルトマンの追放を画策したが失敗し、複数の幹部と共に会社を去って21年にアンソロピックを設立した。トナーの論文は、要するに「王様は裸だ」と叫んでいる。
「効果的利他主義」と「効果的加速主義」
この論文とアンソロピックの設立は、AI開発における「効果的利他主義(EA)」を最も簡潔に表しているかもしれない。 EAは、AIは人類に利益をもたらす存在であるべきだとする。 倫理的な安全制御にも細心の注意を払う。 彼らも技術革新と進歩を目指すが、社会的な安全性と技術の進歩のどちらを選ぶかとなれば、考えるまでもなく常に前者を優先させる。 一方で、より利益志向の強いアルトマンの考え方は、迅速な技術革新を重視してAI製品の商業化を推し進める「効果的加速主義」の最たる例だ。 彼らは安全制御が必要であることは理解しつつ、商業的な目的と人類の安全との間で綱渡りのようにバランスを取ろうとする。 今は明らかに効果的加速主義が優勢だ。 市場(マイクロソフトも)と開発チームと社外の重鎮たちはアルトマンを支持している。 オープンAIの新しい理事会にはラリー・サマーズ元財務長官も加わった。 ハーバード大学の元学長で著名な経済学者でもあり、まさにエスタブリッシュメントだ。 ビル・クリントンとバラク・オバマ両政権で実質的に経済を運営した人物が、アルトマンに太鼓判を押しているのだ。
AI時代に人間が必要とする力
結局のところ、ジョブズやゲイツのときと同じように、世界征服を目指す主要なAIプレーヤー(メタのマーク・ザッカーバーグ、グーグルのセルゲイ・ブリンとラリー・ペイジ、さらにはマスク)とオープンAIが一線を画すことができるかどうかは、アルトマン自身に懸かっている。 アルトマンは解任されたことを、父親の死を知ったときのような「予想外の混乱と喪失感」だったと語った。 もっとも、彼が騒動を通じて見せたかったのは、自分は「ハリケーンの中心に立つのがうまく」、うまくいかないときも、冷静さを失わずに思慮深い決断を下せるというところだろう。 そのようなときに思慮深い決断を下せることこそ、AI時代に人間が必要とする力ではある。 今はアルトマンが「AIの顔」だ。彼に人類の未来を託して本当にいいのかどうかは、また別の話なのだろうが。