奇跡の実話をユーモアと肯定性で包み込む、ハートフルなスポーツコメディの快作『ネクスト・ゴール・ウィンズ』
しかも「最弱チーム」という設定はワイティティ作品の根幹を成す。初期の『イーグルVSシャーク』(2007年)や『ボーイ』、『ハント・フォー・ザ・ワイルダーピープル』(2016年)などにも見られるように、はみ出し者や変わり者、非モテや負け犬──社会の主流から弾き出されたイケてない人間たちを「それでもいいじゃないか」と優しく肯定する。それがワイティティの描く世界に一貫する流儀なのだ。 本作ではそういったワイティティの個性を形成した源流でもある、サモア流の人生哲学が前面化(あるいは全面化)している。島民たちは何よりも伝統や日常を大切にしており、豊かな自然や大らかなユーモアに包まれたライフスタイルを営んでいる。それに触れることで、ギスギスした競争社会に染まり、疲弊したトーマスも次第に肩の力がほぐされていく。我々観客にとってもセラピー効果の絶大な映画だといえるだろう。 苛立ちながらも試合に勝つことにこだわり続けるトーマスに対し、「なら負けましょう。みなと一緒に」という名言を放つサッカー協会会長・兼カメラマン・兼レストランオーナーのタビタさん(オスカー・ナイトリー)や、サモア語で「ファファフィネ」と呼ばれる神聖な性の形を持った選手のジャイヤ(カイマナ)など、この映画の登場人物たちはみんな素敵だ。さらに『ベスト・キッド』(1984年/監督:ジョン・G・アヴィルドセン)や『エニイ・ギブン・サンデー』(1999年/監督:オリヴァー・ストーン)といった映画ネタや、ティアーズ・フォー・フィアーズの1985年の大ヒット曲「ルール・ザ・ワールド(Everybody Wants To Rule The World)」といった選曲など、細かい要素にまでワイカティティらしい個性が詰まっている。大らかなユーモアと肯定性に包まれた彼のバック・トゥ・ザ・ルーツ、リラックスして存分に味わっていただきたい!
Text:Naoto Mori Edit:Sayaka Ito