毛髪再生医療「S-DSC」で薄毛の悩みを解消 男性の20.6%に改善が! 2024年7月から実用化スタート
年齢とともに増える薄毛の悩み。「人目が気になるようになった」「風呂場の排水口に詰まる自分の髪の毛の量にギョッとした」……なんて経験がある人も多いのではないか。そんな人に朗報だ。今年7月から男性型または女性型脱毛症に対する新たな毛髪再生医療の実用化が始まっている。治療法の開発に携わった東邦大学医療センター大橋病院皮膚科准教授の新山史朗氏に聞いた。 髪<下>脱シャンプーのススメ 常温以下の「水洗髪」が理想的 毛髪には、毛が生えてから成長し、抜け落ちる過程を繰り返すヘアサイクルがある。「毛周期」とも呼ばれ、毛が伸びる「成長期(6~8年)」、毛の成長が止まり毛根が縮小する「退行期(2~3週間)」、毛が抜け落ちる「休止期(3~4カ月)」を経て、新たな毛に生え替わる。 ところが、何らかの原因で成長期が短くなると、髪の毛が十分に太くなる前に「生えては抜ける」を繰り返し、次第に柔らかく細い毛に変化して薄毛の状態を引き起こす。 「男性型脱毛症(AGA)の場合、男性ホルモン(テストステロン)が影響しています。テストステロンが5αリダクターゼという酵素によってジヒドロテストステロンに変換し、男性ホルモンの受容体を結合すると、脱毛を促す指令が出されます。額の生え際や頭頂部に薄毛が見られやすいのは、受容体がこれらの部位に多いためです。一方、女性型(FAGA)は原因がはっきりせず、男性型と違って頭頂部から側頭部にかけて薄毛が広がるのが特徴です」 日本皮膚科学会の「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」によると、AGAに対して推奨度A(行うよう強く勧める)の治療は、内服薬の「フィナステリド」と「デュタステリド」のほか、外用薬の「ミノキシジル」があるのに対し、FAGAではミノキシジルのみ。 いずれも毎日継続する必要があるほか、内服薬では、まれではあるが性機能障害や肝機能障害が報告されている。 そこで、冒頭に述べた新たな毛髪再生医療が期待されている。 ■毛根の細胞を培養して頭皮に注入 「これまで毛の根元にある毛乳頭(DP)細胞が、毛髪の成長や増毛に関係すると知られていました。過去の研究で、毛髪組織のさらに深部にある毛球部毛根鞘(DSC)細胞を取り出して培養し、投与したところ、DP細胞を移植したときに比べてより毛を太くすることが分かったのです。そこで今回、『S-DSC毛髪再生医療』として、患者さんへ提供を開始しました」 局所麻酔をして患者自身の脱毛していない部位から直径5~6ミリの頭皮と毛髪を採取し、顕微鏡下で毛根からDSC細胞だけを取り出す。2~3カ月かけて培養したら、専用の注射器で患者が希望する部位に培養液を注入する。効果は3カ月後から現れ、効果が確認され患者が治療の継続を希望する場合には再投与する。 なお、培養した細胞の使用期限は1年だ。 新山氏らが昨年発表した臨床研究(男性17人、女性19人=20~59歳)によれば、写真判定の結果、男性の20.6%、女性の38.9%に改善が見られたという。 「女性に効果が高かった理由は、はっきりと分かっていません。ただ、前頭部や頭頂部の薄毛が明確な男性に比べて女性は全体的に髪のボリュームがダウンする特徴があり、残存する髪の毛の多さから、毛が太く成長した際に外見の変化を感じやすいのではないかと推測しています。その点からも、薄毛の進行がそこまで深刻でない50歳前後までの方が治療の適応目安とも言えるでしょう」 7月の開始以来、大橋病院ではこれまでに7人が治療を受けているという。 ただし、B型・C型肝炎ウイルス、成人T細胞白血病ウイルス、ヒト免疫不全ウイルスの感染者や、妊娠中または授乳中、局所麻酔で過去に過敏症を起こした経験がある場合には治療は受けられない。 S-DSC毛髪再生医療は自由診療だ。注入範囲や回数によって差はあるが、現在、大橋病院では約150万~330万円で行われている。 既存の治療に比べて費用はかなり高額だが、既存の治療が受けられない、効果がなかった人にとっては光明が差す治療法といえる。