「声が出ない」のは致命的…声優・水島裕さん声帯ポリープ手術を振り返る
今も月1回受診して声帯の写真を撮っている
手術は全身麻酔でした。初めて手術着を着て、ストレッチャーに乗って、ガラガラ運ばれる……よくドラマで見るあの手術室への展開ですよ(笑)。手術室に入って、見上げると目の前には大きな丸いランプ。それを見たところまでは記憶にあるのですが、その後、気づいたらすべて終わっていました。 術後、注意事項がズラッと書いてある紙を渡されました。印刷されている項目の中にひとつだけ、赤い色のボールペンの手書きで「3日間完全沈黙」と書いてあるんです。しゃべっちゃいけないことはもちろん、咳やくしゃみもダメなんですよ! ささやくのもダメ。力むのもダメ。とにかく声帯に負担がかかることは一切ダメな3日間を過ごしました。 人間は、頑張れば咳やくしゃみもコントロールできるんですね。一度もしませんでした(笑)。コロナ禍で面会禁止だったのもラッキーでした。笑うこともダメだし、しゃべる意識をするだけでも喉にはよくないらしいですから……。 その後は、声のリハビリの先生のキーボードに合わせて声の出し方を習いました。初めはコントロールできなかったのですが、徐々にスムーズに出せるように指導してくださるんです。 5日間で退院して、翌週から仕事復帰できましたから順調な回復だったと思います。 あれから4年半たちますが、今でも月1回受診しています。状態が心配なので、毎月声帯の写真を撮ってもらい、吸入薬(蒸気とともに吸い込んで気道に噴霧する薬液)をいただいています。早期発見が一番大事ですし、安心したいので、一生通うと思います(笑)。 普段の生活で気を付けているのは、仕事以外ではなるべく喉に負担をかけないこと。あとは加湿ですね。自宅には加湿器が3台あって、今の季節はフル稼働しています。寝室は湿度50~60%になるように加湿して寝ていますし、家中の湿度は常に50%になるように設定しています。 でも、それ以外は無頓着で、やってることといったら洗顔とヒゲ剃りぐらいですね(笑)。 手術で声が変わった感覚はありませんが、年齢的な変化は感じています。この9月に歌手生活45周年のコンサートをやったんですが、バンドマスターが「45年前のキーでいこう」と言い出して……。いや~これはきつかった(笑)。やはり全体的にキーが低くなったんだなぁと思いました。 病気を経験するとみんなそうでしょうけど、日常のありがたみが身に染みますよね。僕なりに言うと、「ファイティングポーズをとれるありがたみ」を感じたんです。声が出ないと、仕事に対してファイティングポーズがとれない。それが痛いほどわかりました。 (聞き手=松永詠美子) ▽水島裕(みずしま・ゆう) 東京都出身。児童劇団の劇団若草出身で、中学1年のときに役者デビューし、舞台やテレビで活躍。中学2年で劇場版「くまのプーさん」で声優デビューを果たした。香港の映画俳優サモ・ハン・キンポーの吹き替えのほか、アニメや映画でさまざまな声を担当し、TBS系「ひるおび」のナレーションも長く務めた。現在、小学生だけの声優養成所「81キッズ」の代表講師も務めている。