「女性の生きづらさ」を描く『燕は戻ってこない』制作陣が「男性もつらい」に対して思うこと
「男性もつらい」の声に思うこと
――「女性の怒り」に対して、女性は「よくぞ言ってくれた」「ありがとう」と言う人が多いと思いますが、男性を中心に「怖い」と言う人もいるじゃないですか。ドラマを進めていくうえでそうした意見はありませんでしたか。 板垣麻衣子(以下 板垣):ないことはないし、それはこの番組に限らず、最近すごく言われることですよね。よく目にするのが、「男性もつらい」という声です。 ――それはいろんな場面で見かけます。 板垣:その気持ちも私はすごくわかるんです。でも、男性もつらいんだから女性も我慢しろというのは変だと思うし、それは全然違う議論だから、戦い続けないといけないと思うんですね。私もジェンダーで言うと、女性という弱い方の立場ですが、例えばドラマのチームの中では、プロデューサーという権力者の方なんですよね。だから、他の人たちから「つらい」という意見があがってくるのを聞くこともあって。 自分も他のことですごく大変で気持ちがイライラしているときに、そういう声がたくさんくると、「プロデューサーも大変なんだよ」と思うときがある。でも、私が悩んでいることと他の人の悩んでいることは違うし、私も大変だからあなたたちも我慢しろとは絶対ならない。だったら、みんなが一番いい形になるにはどうしたら良いのかと考え続けることが大事だと思うんです。 ――自分もつらいんだからお前も我慢しろでは、誰も幸せにならないですもんね。 板垣:みんな自分の優位性には気づきにくいんですよね。自分も含めて、内省し、優位性を考え続けないと、忘れてしまうんだと思います。
「自分がドキドキするか」「人間を深く描きたい」2人がドラマ作りで大事にしていること
――最後に、お2人がそれぞれドラマ作りで大事にしていることを教えてください。 清水:ドラマ作りには、いろいろなフェーズがあります。企画書作り、脚本作り、撮影、編集、それぞれのフェーズで、ちゃんと自分がドキドキするか、心が震えているか、ということをチェックポイントにしています。そして自分だけでなく、企画書を読む人やドラマを観る人も同じくドキドキするのか、ということも大切です。それぞれのフェーズでそれが起こっていないとしたら、それより先に進んじゃいけないというか、そこが上手くいっていないならどうすれば良いかということを常に考えています。 ドキドキがないと、商品としてはパッケージされているけれど、非常に薄味でつまらないものになってしまう気がするんです。それを感じられるセンサーを持っていないといけないわけですが、そのためにはインプットもしなきゃいけないし、アウトプットした際にいろんな人からのフィードバックを受けて、さらに考えなければいけない。 ―ご自身がドキドキするかどうかの1つの要素に、怒りもあるのですか。 清水:もちろん怒りだけじゃないですけどね。怒りも喜びも驚きも、そうした強い感情が誰かに渡ったときに、それが認められた、受け入れられた、怒りだったらある種解消したみたいなことを大切にしたいんです。三谷幸喜さんとやっていた『鎌倉殿の13人』で言えば、それは笑いであり、驚きでしたし、今回の『燕~』も長田さんが書かれたものを編集室で見ていて、やっぱり笑っちゃったりするんですよ。大変なことが起こっているのに、もう笑うしかないねみたいなところは、本当に上手いと思いますね。 板垣:『燕~』について友達に、「大真面目に見えて、すごい喜劇だよね」と言われたんです。私にとってそれは褒め言葉でした。人間って滑稽に見えるところもあるよね、でもだから面白いよねと言ってくれて。 私はフィクションは、人間というものをすごく深いところまで描ける、見つめられるところが魅力だと思っているんです。映画も本もドラマも演劇も全部、好きなところはそういうところで、ドラマを自分が作るときはそれが深いテーマでも良いし、笑えるものでも良いんですが、人間を深く描きたいなと思っています。
田幸 和歌子(フリーランスライター)