推しに金と時間を捧げる童貞男。メンズエステに来店した理由は「彼女への復讐」!?【作者に聞く】
メンズエステとは、マッサージを中心とした施術で心身の癒やしを提供する男性向けのお店のこと。「メンエス嬢加恋・職業は恋愛です」は、そんなメンズエステを舞台にした創作漫画。肌に触れるだけで人の心の奥底までも理解してしまうメンエス嬢の加恋が、店にやって来た“訳アリ”な客の心身を癒やす。描くのは漫画家の蒼乃シュウさん(@pinokodoaonoshu)。 【漫画】本編を読む 今回は、「モテない男」。メンズエステにやって来た桜之坊澄雄は、30歳の童貞。「身だしなみを整えるだけで彼女だってすぐにできるわ」と言う加恋に対し澄雄は、「残念ながらボクだって彼女くらいいるんだッ」とアイドルの画像を見せる。 ■生き甲斐になるのなら推し活はいいこと まずは童貞男を描こうと思った理由について聞いてみた。 「モテなさそうな、いかにもオタクっぽい男がメンズエステの客として現れたらおもしろそうだなあと思って、描きました」 アイドルのみゆたんに「すべてを捧げる」との言葉通り、お金や時間を費やしている澄雄。蒼乃シュウさん自身は、誰かを推した経験はあるのだろうか。 「推し活は本人が夢中になっていて、生き甲斐になるのならばいいことだと思います。私も高校生のときに好きなアーティストのCDを買ったりコンサートに行ったりするために、アルバイトをしていました。そのアーティストには生きる希望をもらいましたので、感謝の気持ちを込めて30年以上経った今でもファンクラブに入会しています」 「みゆたんさえいればいい」という澄雄に、「じゃあなぜここに来たの?理由があるんじゃない?」と訊ねる加恋。するとSNSの投稿から彼氏がいることを知り、「浮気してやろうと思ってここに来た。みゆたん以外の女に金を使うことがみゆたんへの復讐なんだ」と語る。「彼女への復讐ですね。承知しました」とほほ笑む加恋の、他者を否定しない態度が印象的だが、加恋を描くときに意識していることを聞いてみた。 「彼の言い分は年齢のわりに、かなり幼いですよね。私だったらもちろん引きますが…(笑)。でも、そんな彼を否定ぜず優しく包み込む加恋の接客は、自然と生まれました。こんな風にキャラクターが勝手に動いてくれるときが、漫画を描いていて最もうれしい瞬間です」 ■たとえ失敗しても、誰かに恋をする気持ちは素晴らしい 加恋の施術中、初恋の人を思い出す澄雄。行きつけの喫茶店で働いていたその女の子は笑顔がとびきりかわいくて、お気に入りのメニューを覚えてくれていて、いつしか「彼女もボクのこと好きなんじゃないかな」と思うようになっていた。今回の話で一番描きたかったことは何だったのだろう。 「モテないことがコンプレックスの男ですが、『誰かに恋をする気持ちは素晴らしい』ということが描きたかったんです」 旅行のおみやげを好きな女の子へ渡したところ、「大事にしますね」と笑顔で受け取ってくれた。それから毎日、ささやかなプレゼントを持って店へ行くようになった澄雄。だが段々と喜んでもらえなくなったため、「安物だからガッカリしたのかな」と、ブランドもののネックレスを渡す。満面の笑みを向けてくれるかと思いきや、彼女は「困ります…もうやめてください」と泣き出すのだった…。 「好きな人に振り向いてもらうための努力はいいことだと思いますが、結局それは気を引くためのテクニックに過ぎません。一方的にならず、相手の反応をちゃんと見てコミュニケーションをとる努力を怠った結果でしょうね」 ■誰かに奉仕することではなく、一緒に楽しむことが恋愛では 初恋の苦い経験から澄雄は、課金すればするほど喜んでくれるアイドルへの推し活にのめり込んでいく。だけどいくら愛してもアイドルに触れることはできず、「こんな温かい体温をボクは誰とも共有することはできないんだね」と嘆く。そんな彼に加恋は、「好きな女の子に向ける気持ちを少しでも自分に向けてあげて」と語りかける。この言葉をきっかけに温泉や銭湯巡りをはじめ、その記録をSNSで発信するようになった澄雄。自分の心の満たし方を知った彼の今後について、聞いてみた。 「恋愛とは誰かに奉仕するものだと思い込んでいた澄雄ですが、一緒に楽しむことが恋愛だと気づいてほしいです。まずは自分が趣味を楽しんでいるうちに、自然と恋人もできるのではないでしょうか」 加恋の施術や会話を通じて自分の心の満たし方を知り、今ではすっかり充実した様子の澄雄。次はどんな訳アリ客が店にやって来るのだろうか。今後も楽しみにしてほしい。 取材・文=石川知京