新米の出荷が始まった「コシヒカリ」、日本を代表するお米の発祥は何県?
生みの親と育ての親
このお米は食味がすこぶる良かったけれど、稲の背が高く倒れやすい、いもち病に弱い、という農家にとっては手強い欠点があった。しかし、コシヒカリの品種登録に先立つ1955年、「栽培法により克服できる欠点は、致命傷にあらず」と「越南17号」を奨励品種として採用したのが、福井県ではなくて、新潟県と千葉県だった。奨励品種というのは、都道府県がそのお米を優良だと認定し、都道府県内で普及させる品種のこと。新潟県が英断を下して先んじたことで、ここに分かれ道ができた。 新潟県などが奨励品種としたおかげで、「越南17号」は、1956年に国の登録番号「農林100号」、品種名「コシヒカリ」として品種登録される。福井県がコシヒカリの生みの親で、新潟県が育ての親と言われる所以はここにある。 ちなみに福井県がコシヒカリを奨励品種としたのは1972年。“原産地”として悔しい思いをすることにはなるが、食糧増産の時代にあっては、食味よりも育てやすさが優先されていたので、致し方なかったという側面は少なからずある……。
土鍋でいただく福井産コシヒカリ
さて、品種登録から60年近く経った現在、東京・銀座一丁目にある福井料理店「お結びcafe」の店長・稲沢良太さん(24)にも「コシヒカリのルーツは福井県にあるんですよね?」などと質問をしてみる。 しかし、稲沢さんは「そんな難しい話はともかく」とでも言いたげな表情で、シューシューと白い湯気が立つ黒い土鍋のふたを開いてくれた。中身はもちろん、福井県産の新米コシヒカリで、土鍋のなかから温かい湯気が立ち上り、甘い香りがしてきた。
土鍋で炊くと、鍋全体がゆっくり熱くなっていく。この過程で甘みが増していくのだという。新米を炊くには、水加減を少し減らした方がいい。まんべんなく熱が加わることで対流がおきて、ふっくらと仕上がる。しかも、土鍋は冷めにくい。 「炊きあがりの米の立ち方とツヤがあり、ふっくらして甘みがしっかりしていると思います」。確かに、米の一粒一粒が立っている。土鍋ごはんは、予約をしなければならないのだが、さらにお願いすると「おむすび」にしてくれる。 福井県越前市出身の稲沢さんは「福井のコシヒカリを食べるのは、福井の大人や子どもにとって当たり前。福井のコシヒカリしか食べたことがないくらいですよ。ここ東京の銀座にあって、福井と言ったらコシヒカリというのを知ってもらうのが第一です」と爽やかに主張する。