昇進した優秀な同期に「昇進うつ」の危険性を指摘…他人の幸せが絶対許せない人の「頭の中」
根底に潜む羨望=他人の幸福が我慢できない怒り
この男性の考え方は必ずしも間違っているわけではない。たしかに、常に最悪の事態を想定しておくことによって、問題が起きたときにより迅速に対処できるかもしれないし、幻滅せずにすむという効用もあるかもしれない。また、どこに落とし穴が潜んでいるかわからないから、用心するに越したことはない。 あるいは、この男性がネガティブな面ばかり指摘するのは、ペシミスト(悲観論者)だからかもしれない。ペシミストは、たとえ自分にいいことがあっても、あまり喜ばない。少なくとも表面上はうれしそうな素振りを示さない。まるで、手放しで喜ぶと不幸を招きかねないと思い込んでいるように見えることさえある。だから、自分自身がペシミストであるがゆえに、他人が喜んでいるのを目にすると水を差すようなことを言わずにはいられないという見方もできよう。 だが、どうもそれだけではなさそうだ。というのも、この男性が若い頃はすごい頑張り屋で、同期の出世頭になるのではないかと期待されていたことが、同期の女性社員の話からわかったからだ。 実際、課長の一歩手前のポジションまで昇進したのは、この男性が同期のなかで一番早かった。ところが、直属の上司と反りが合わなかったこともあって、なかなか課長になれなかった。やがて、先ほど述べたように、別の男性社員が同期のなかで最初に課長に昇進。その際、せっかくの昇進に水を差すような言葉を吐き、昇進うつの危険性まで指摘したわけである。 これまでの経緯を振り返ると、この男性の胸中には、羨望、つまり他人の幸福が我慢できない怒りが潜んでいる可能性が高い。自分も昇進したくて、若い頃はそれなりに努力を重ねていたにもかかわらず、課長の一歩手前のポジションで足踏みする羽目になった。一方、同期は自分よりも先に課長に昇進した。その幸福が我慢ならなかったのだろう。 だからこそ、同期が手にした幸福にケチをつけたと考えられる。いくら喉から手が出るほどほしくても自分は手に入れられない幸福に浸っている他人を見ると、そのネガティブな面をいちいち指摘して、価値を否定せずにはいられない。 「他人の幸福は必ずしも甘いわけではない。むしろ酸っぱい。ときには苦いこともある」と自分で自分に言い聞かせて、怒りと悔しさを和らげようとしているようにも見える。まさにイソップの「酸っぱいブドウ」を地で行く話といえよう。 つづく「どの会社にもいる「他人を見下し、自己保身に走る」職場を腐らせる人たちの正体」では、「最も多い悩みは職場の人間関係に関するもので、だいたい職場を腐らせる人がらみ」「職場を腐らせる人が一人でもいると、腐ったミカンと同様に職場全体に腐敗が広がっていく」という著者が問題をシャープに語る。
片田 珠美(精神科医)