「顔や頭じゃ勝負にならない」小堺一機、飛び石の上を渡り続けた芸能人生の原点
居心地がよすぎた人気舞台に幕を
「僕のショーなんて誰も見にこないだろうと思っていたんですけど、機会を与えてもらいましてね。飛び石を置いてくれる人がいたんですよ。で、やってみてわかったんです。おしゃれなこともバカなことも一つのステージで表現する、これって自分がやりたかったことだなって」 歌、踊り、タップ、コント、トーク─アメリカンスタイルで繰り広げられる楽しさのフルコース。初回から第5回公演までゲスト出演した関根は言う。 「歌や踊りはニューヨークのミュージカルみたいでとってもスマートなんですよ。一方でバカバカしいお笑いもいっぱいあって、コントやっててすごく楽しいから僕がどんどん時間を延ばしちゃったら、それに小堺くんも付き合ってくれましてね。上演時間が4時間くらいになったんじゃないかな。 あの面白さを知ったおかげで、僕もコメディーの舞台をやりたくなって、'89年に『カンコンキンシアター』を旗揚げして、『おすまし』を卒業させてもらったんです」 小堺は『おすまし』の舞台に本場のクオリティーを求め、毎年ニューヨークを訪れるようになる。その旅に同行した経験がある、前出のずんのやすは言う。 「ブロードウェイのミュージカルを見にいくと、小堺さんは役者の演技だけじゃなく、観客のリアクションまで観察するんですよ。食事のときも、『セックス・アンド・ザ・シティ』のロケ地になった『ゴッサム』というレストランに連れていってくれたり。 小堺さんから、“現実を知っている人がいちばんロマンチストだ”というチャップリンの言葉を教えてもらったことがあるんですが、小堺さん自身が、本場の文化を肌で感じることを大切にされているから、あれだけお客さんが沸くスタンダップコメディーを演じられるんだなと思いました」 毎年、満員御礼だった『おすまし』は'17年に幕を閉じた。なぜ終止符を打ったのか? 小堺は「居心地がよすぎた」と、その理由を述べる。 「スタッフはみんなツーカーで、例えばタップシューズのヒモが切れたら、“直して”って言わなくても2分後には直っているんです。そういう環境に慣れすぎると、ほかの舞台に出させてもらったときに、愚痴を言っちゃうと思ったんですね」 『おすまし』の復活はない、やるなら新しいことをやりたいと小堺は言う。その心境は、『ごきげんよう』のサイコロトークで流れた音楽と一緒。♪なにが出るかな、なにが出るかな─。 「船に例えるとね、萩本さんや、たけしさんや、さんまさんはクルーザーで、エンジンがついているから自分で外海に出ていける。僕は、エンジンはないけど帆を張っていて、いろんな人が送ってくれる風を受けて進む。 思いがけない方向へ進むこともあるけれども、そのおかげで僕は自分では気づかなかった長所を引き出してもらえた。司会もそうだったし、舞台もそうだった。次はどんな風が吹いてくるか? 破けそうな帆をいっぱいに広げて(笑)、楽しみにしていますよ―」 ●Information 小堺が歌とトークを披露するスペシャルライブ『Kazuki Kosakai Sing,Sing,Sing &Talk!!』が10月26、27日に東京・COTTON CLUBで開催 <取材・文/伴田 薫> はんだ・かおる ノンフィクションライター。人物、プロジェクトを中心に取材・執筆。『炎を見ろ 赤き城の伝説』が中3国語教科書(光村図書・平成18~23年度)に掲載。著書に『下町ボブスレー 世界へ、終わりなき挑戦』(NHK出版)。