「定時に帰りたい」「嫌な上司に言い返したい」仕事が第一優先ではない人のためのお仕事小説に込めた思い
中間管理職のポストに就き、上司や後輩、同期の板挟みにもがく女性や、仕事は評価されているが家庭では違った一面を持つ営業マン、育休明けの元上司を「助ける」ムードに違和感を持つ人間。会社は仕事をする場所ではあるものの、それだけではうまくいかない──それらを丁寧な描写で紡ぐ連作短編集『明日も仕事にいかなくちゃ』が刊行された。本作の執筆の背景や、物語に込めた思いを著者のこざわたまこさんにうかがった。 ***
■私たちは大なり小なり労働にアイデンティティを仮託していると思うんです。
──本作は2018年に刊行された『仕事は2番』の文庫化です。「小説推理」(双葉社)の連載を経ていたので、執筆は2017年でした。当時、作品に込めた思いや制作の背景を教えて下さい。 こざわたまこ(以下=こざわ):作品の背景として、当時は自分も会社員をしていたことが大きいです。同僚や職場環境的には恵まれていたと思うんですけど、それでもやっぱりしんどい時期はあって。お仕事小説と呼ばれているものが、まったく読めなくなってしまった時期がありました。半沢直樹フィーバーで、池井戸潤先生の本が書店に平積みされているのすらキツかったです(笑)。倍返し、ふつうの人はできないじゃないですか。労働のつらさを労働によって解決するプロセスを、フィクションで見たくない、と思っちゃったんですね。 自分がそうだったから余計に思うんですが、どうしようもなく仕事がつらい時って、仕事を2番にする余裕はないんですよね。脳のキャパシティが仕事でいっぱいになってしまって、どうしても生活のいちばんにせざるを得ない。そういうギリギリの状況で、仕事だけが人生じゃないさ、仕事は2番でやっていこうよ、みたいなことを言われても、「うるせぇ、きれいごと言ってんじゃね~!」って思っちゃう(笑)。 でも、誰かの言った「きれいごと」に反射でイライラしてしまうほど心が削られている状況って、やっぱりちょっと違うんじゃないかな、とも思うんです。現実はこうだからとか、言い訳しても仕方ないとか、そういうのを全部とっぱらって、本当はどうしたい? って聞かれたら、ほんとはちゃんと定時に帰りたいですとか嫌味な上司にガツンと言い返してやりたいとか、これが叶ったら自分の労働環境がちょっとよくなるはずなのに、みたいな願いは、誰しも持っているはず。そういう願いを物語の中で、なるべく「きれいごと」に聞こえない範囲で実現させたいな、という思いを込めて、この小説を書きました。