坂元真澄(スタイリスト/編集者)「輪島・茶寮 杣径(そまみち)」──人里離れたオーベルジュを訪ねる。特集:車とともに旅に出よう。
旅の季節がやってきた。西へ東へ、国境さえも越えて、車はどこまでも私たちを運んでくれる。かつて、若きジェントルマンは未知なる世界へ、見知らぬものと出会い、自身を高めるために旅に出た。『GQ JAPAN』はこの秋、瀬戸内、能登、函館、そしてソウルへと学びの旅を提案する。車を相棒に、グランドツーリングへと出かけよう。能登をスタイリストの坂本真澄と巡る。 【写真を見る】杣径の様子。
屋号の「杣径」よろしく、山道を奥へ奥へと走ったところに、この静謐な宿はある。看板もなければ、道案内もない。「杣径」は、塗師の赤木明登が譲り受けた古民家を建築家・中村好文の協力を得てゲストハウスとした後、今年6月、「里山十帖」の北崎裕シェフを迎え、人里離れたオーベルジュとして再生した。 「杣径は行ったことがなく、以前から機会があればと思っていました。赤木さんもまた角偉三郎さん同様にディレクションがずば抜けていて、ニーズを高い次元で解決する方だと思います。編集者から漆作家に転身したという赤木さんの経歴にも興味がありますね」 坂元が言うように、赤木は雑誌編集者時代に角に出会い、深い感銘を受け、88年になにもわからぬまま、ここ輪島で漆の世界に入った。 「陶芸は個人の作業で、アドリブが利きますけど、漆は分業なので、親方がディレクションする計算ずくの世界なのです。僕がやってきたことは、革新性より、輪島の漆を最も美しかった時代へと戻す、保守的でクラシックな作業なんです」と、赤木は語る。 その赤木の茶寮という新しい“作業”は意外性に満ちている。ゲストを迎える玄関は、陶芸家・内田鋼一による石を配置して、日常と宿の非日常を隔てる「三途の川」に見立てている。そして、ゲストをもてなすためにふるまう北崎シェフの端正な料理の数々。酒粕と豆乳で和えたれんこん、煎り酒をまぶしたアオリイカなど、地元・能登で採れたごく普通の食材が、北崎の手により、品よく再生され、現代作家の器に盛られる。時には器をながめて料理を決めることもあるそうだ。シェフの仕事もまた、赤木のクラシックな作業を見るようだった。 ■茶寮 杣径 深い山奥の静寂のなかで過ごすひと時。宿泊は1日1組のみ2~5名まで。 住:石川県輪島市門前町内保コ 30 TEL:090-6245-3737 一人4万4000円、朝食付き、送迎あり。夕食のみの利用も可能で一人2万2000円(1日8名まで)。 予約はウェブサイトから https://www.somamichi.jp ■坂元真澄(さかもとますみ) 祐真朋樹に師事し、2001年独立。雑誌、広告、東京コレクションなどを手掛けるほか、雑誌『大勉強』の編集長としても活躍。2021年から活動の拠点を東京から石川県に移す。
文・古谷昭弘 写真・深水敬介 イラスト・尾黒ケンジ 編集・岩田桂視(GQ)