”物語+実用”で児童書の幅を広げた『わかったさん』シリーズ、挿絵画家・永井郁子が33年ぶり新作で魅せた「読書の醍醐味」
■かつての子どもたちから熱狂的な反響、SNSで何十万と広がる様子に「本当に驚きました」
2017年、あかね書房は、「わかったさん」の誕生30周年を記念して、シリーズの名シーンやお菓子の作り方に加え、新しいレシピも載せたイラストブック「わかったさんとおかしをつくろう」全3巻を発行。それに伴い公式アカウントを立ち上げたところ、瞬時にフォロワー数が2万を達成。その後、2023年に「わかったさん」の世界をモチーフにしたキーホルダーや一筆箋、アクリルスタンドなどオリジナルグッズの制作についてオファーが入り、販売が開始されると、こちらも大盛況だった。記念に行われた永井氏のサイン会は、100名分の電話予約が30分で埋まるほどの人気ぶりで、当日には感動のあまり涙ぐむファンの姿もあったという。 「『今でも仕事で辛いときに読んで癒される』とか、『「わかったさん」をきっかけにパティシエになりました』など、ファンの方からのお声に、改めて長年愛されてきた作品の持つ底力を感じました。寺村先生は本当に素晴らしいものを残されたと実感しています。そのシリーズをご一緒させてもらえたことで、先生の言い回しや空気感が体に染みついている私だからこそ、頑張ってみようと思えました」(永井氏) 「永井氏だからこそ」はあかね書房の望むところでもあった。むしろ「永井さんが書くのでなければ新作は実現しなかった」と木内氏。そこには「わかったさん」を大事にするからこその理由があった。 「これまで『わかったさん』はドラマ化やアニメ化の声も多数いただいてきました。でも、10巻しか出ていないため、ドラマやアニメにするためには、その先の話を新たに脚本家やアニメーターが作らなければなりません。それはあり得ないというのが弊社の判断だったので、ご依頼はすべてお断りしてきました。逆に言えば、新しいシリーズの文章を書けるのは長年、寺村先生と『わかったさん』を作り上げてきた永井さんしかいません。永井さんが企画を持ち込んでくださったからこそ実現できたことでした」(木内氏) こうして33年ぶりに登場した「わかったさん」の新作に、子ども時代に「わかったさん」に魅せられた往年のファンたちは歓喜。ポーズモデルを務めていたころの思い出をポストした永井氏の姪のSNSまでバズったほどだったという。 「かつての子どもたちが『待ってました!』と熱狂的に喜んでくれている様子は、まるで夢を見ているようです。何より嬉しかったのは、『寺村輝夫をちゃんと受け継いでいる』『世界観が同じ』と言ってもらえたことでした。それを一番意識してきましたから、涙が出るほど幸せでした」(永井氏) 30年以上前と比べ、SNS時代の今だからこその反響の大きさにも感動したという。 「かつては、本に付いているアンケートはがきやファンレターで感想をいただいていたのですが、当時は10通とか20通とか、よくても100通いかないくらいでした。それがインターネット時代の今、いただける感想はいきなり何万何十万ですからね。本当に驚いています」(永井氏)