<ボクシング>八重樫がTKOで乗り越えた2つの影
〈ボクシングWBC世界フライ級タイトルマッチ〉 八重樫東 9回TKO勝利 オディロン・サレタ (6日・大田区総合体育館) 八重樫は、いつのまに、こんなにもクレバーなボクサーになったのだろう。試合前に、八重樫は、「最初は慎重に足を使った出し入れのボクシングをしたい」と語っていた。ゴングが鳴ると、そのボクシングでスタートを切った。が、どうも体が重たい。 「コンディションが悪くて、足が思うように動かなかった、ボクサーってリングに上がったときに、そういうコンディションが始めてわかるもんなんです」。しかも、挑戦者、オディロン・サレタのメキシカン独特のタイミングで打ってくる左フックが見えなかった。 「軌道が見えずに入れなかった」 八重樫は、2ラウンドからボクシングを切り替えた。足が動かないのでガードを高く上げてブロックを固めたまま、プレッシャーをかけて潰しにいくスタイルに変えたのだ。だが、今度は、手数が減り一発を狙いすぎる。逆に世界初挑戦のメキシコ人は、下がりながら軽快にパンチを浴びせてきた。4ラウンドに入ると、八重樫は、またボクシングをステップワークとスピードに頼るスタイルに変えた。だが、公開採点は2人が38-38のドロー、一人は39-37でサレタを支持していた。 5ラウンドも、同じようなボクシングを続けた八重樫は、6ラウンドからスタイルをまた変える。今度は、プレスをかけながら、ボディを中心に消耗戦を仕掛けたのである。サレタは、2年前にコンセプションと対戦して、左フック一発で沈められている。八重樫の脳裏には、その光景がチラホラとかすめたという。 ついつい力む。こういう展開になると、これまでの八重樫なら、カーッとなって、ノーガードで打ち合いを挑み、自爆していた可能性もあった。しかし、V2戦に臨む八重樫は違っていた。根気強くボディを攻めながらチャンスを待った。9ラウンド、至近距離での打ち合いの中、八重樫の右のストレートが絶好のカウンターとなってサレタの顔面を捉えた。膝から落ちたサレタは、立ち上がったが、もう自分のコーナーが、どこにあるかわからないほど朦朧としていた。2分16秒、レフェリーはTKOを宣言した。八重樫は、試合後、「全然、駄目っす」と反省していたが、チャンピオンとしてのクレバーさを十二分に見せつけてくれたTKO劇だった。