これが先進国? 東証社員インサイダー疑い、単なる“不祥事”では済まない深刻な理由
日本取引所グループ(JPX)の社員が、インサイダー取引の疑いで証券取引等監視委員会(SESC)の強制捜査を受けたことが分かった。この社員は、自身の業務を通じて得た未公開の情報を親族に漏洩(えい)し、その親族が株取引を行ったことでインサイダー取引の疑いが持たれている。 【画像】「インサイダー取引」各国の比較 クリーンな取引が行われる市場であるよう、見張るべき立場の職員が、あろうことか違法行為に手を染めていた──これまでに発覚したことがあるインサイダー取引とは一線を画す事案だ。金融市場、ひいては日本経済にはどのような影響があるのだろうか。
懲役5年、罰金500万円以下──ペナルティー「軽すぎる」の声も
東証職員の報道と前後して、金融庁に出向していた30代の裁判官が、インサイダー取引の疑いでSESCの強制捜査を受けたことも明らかになった。この裁判官は、金融庁の政策市場局に出向し、企業のディスクロージャーに関する文書を検討する役割を担っていた。その職務中に得た未公開の情報を基に株式を取引し、個人的に利益を得たとされる。 SESCは、これらの人物が職務中に入手した企業の重要な情報を基に株式を売買したり、させたりした可能性があると見て、取引記録や通信履歴などを精査しているという。捜査が進展すれば、両者とも逮捕、起訴される可能性がある。 公的な立場に属する人間がインサイダー取引に関与した例としては、2005年と2012年にいずれも経済産業省職員によって行われたインサイダー取引の事案よりも重大だ。今回は、インサイダー取引を取り締まる立場である証券取引所の職員、そして金融庁に出向した裁判官までもが目先の利益のために、金融市場制度、司法制度を脅かしている。 インサイダー取引が金融市場に与える影響は深刻だ。未公開情報を利用することで、公正な市場競争が損なわれ、一般投資家が不利益を受けることになる。このため欧米では、インサイダー取引に対する厳しい罰則が設けられている。米国では、インサイダー取引を行った個人には、20年以下の懲役もしくは500万ドル(法人は2500万ドル)以下の罰金又はその両方が科される。 これに対し、日本の金融規制はかなり緩かった。2006年に改正されるまでは、最も重い場合で懲役3年および罰金300万円だった。インサイダーの程度によっては罰金刑だけで済んだり、執行猶予がついたりする場合も多く、実際に刑務所に収監されないことすらあった。 現在は懲役の上限が「5年以下」と2年伸び、罰金も「500万円」と200万円増額されている。しかし、一部では現行の罰則でも、国際的に見てペナルティーが軽すぎないかと指摘されている。これが抑止・再発防止効果を損ね、市場の公正性に対する信頼を低下させているのではないかという主張だ。 ちなみに、上述の経済産業省の幹部職員による2012年のインサイダー事案では、エルピーダメモリに関連する銘柄が取引の対象だった。この元幹部は、政府内部で得た未公開情報を基にして、半導体業界における重要な取引に関する株式を長期にわたり事前に購入したことで訴追された。量刑は懲役1年6カ月で執行猶予が3年、罰金は100万円にとどまり、不正により得た利益に対する追徴金約1000万円で確定した。実刑判決ではなかった。